1965年、東京生まれ。自然番組のディレクターとしてNHK「生きもの地球紀行」などの制作に携わったのちフリーに。図鑑や自然図書の執筆や監修、科学体験教室や講演を行なう。著作に『カラスの常識』、『講談社の図鑑MOVE』シリーズなど。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。Twitterアカウント名は「ドリトル柴田」。
都市は、人間が暮らしやすくなるように設計された環境ですから、自然のなかで生きてきた鳥たちにとって棲
みやすい環境ではないはずです。しかし、そんな都市にも鳥が棲んでいます。それどころか最近になって、わざわざ都市に進出して暮らしはじめた鳥もいます。そんな鳥たちを観察し、その理由を探るのが都市鳥ウォッチングのおもしろさ。理由を知れば知るほど「生きものってすごいなあ」と思わずにはいられないのです。さあ、皆さんも都市鳥に出会って、そのしたたかな暮らしぶりを見つめてみませんか。普段見ている景色が一変すること間違いなしです。
さて、都市鳥を観察するわけですから、まずは都市鳥とはどんな生きものなのか定義をしておきましょう。『鳥類学事典』(昭和堂)によれば、「人口が集中し活発な経済活動が営まれる都市は、人の利便性や効率性を追求してつくられた人工環境である。その都市で食物資源を利用し、繁殖や越冬の場所を確保するなどして都市環境に適応した野生鳥類を都市鳥という」と書かれています。要するに街中で繁殖したり、越冬するなど都市環境を利用し生活している鳥のことを「都市鳥」と呼んでいます。また、ひと口に都市といっても、ビルが建ち並ぶ東京都心部のような大都市もあれば、札幌のような山が隣接する地方都市などの様々なタイプがあります。当然、そこに暮らす都市鳥の種類も都市によって違ってくるのですが、日本ではおよそ50種の鳥が都市との関係を持って暮らしている都市鳥といえるでしょう。
日本には50種ほどいる都市鳥ですが、大きく分けると次の3つのタイプに分類できます。
ひとつ目は、昔から人のそばで暮らしていた鳥が、都市化してもそのまま棲み続けているタイプ。これはツバメやスズメなどのお馴染みの鳥たちがあてはまります。
ふたつ目は、かつては決まった季節にだけ街中で見られた鳥が、いつしか一年中いて繁殖するようになったタイプ。冬に街で見られたメジロやヒヨドリなどがそうです。越冬居残りタイプとでもいいましょうか。
みっつ目は、市街地ではまったく見られなかったのに、あるときから見られるようになったタイプ。ツミやオオタカ、チョウゲンボウなどの猛禽類や海辺を好むイソヒヨドリなどがそうで、街中にこんな鳥がいるの!と驚くのがこのタイプですね。
都市鳥の基本的な知識を習得したら、いよいよ街に出て都市鳥を探してみましょう。といってもわざわざ鳥を見に行く必要はありません。お勧めは、毎日の買い物や通勤のついでに鳥を見ることです。都市鳥は意外なことに繁華街や駅周辺に多い傾向があり、定期的に通うことで発見の確率が上がります。私も毎日、自宅から住宅地を通って駅前で買い物するコースで鳥を見て回っていますが、毎回のように発見があります。海から20kmほど内陸の私の住む街でイソヒヨドリの巣を見つけたのも、この観察での成果です。
私の場合は見れば種類が分かりますし、買い物ついででもあるので、持ち物はとくにありません。入門者は図鑑、双眼鏡、メモ帳の3点が基本の道具になるでしょうか。しかし、街中での観察はプライバシーの観点から双眼鏡や望遠レンズをつけたカメラでの撮影はちょっとはばかられます。私はどうしても写真を撮る必要が生じたときだけ、カメラを持って出かけることにしています。
都市鳥の観察は記録の積み重ねが大事なので、メモを取ることは忘れないようにしたいものです。私は、SNSに他人からはのぞけない鍵アカウントをつくって、スマホからメモがわりに記録を投稿しています。種名や観察した行動などを記録しておくと、まとめるときに検索でさっと探せるのでとても便利なのです。ただし、SNSの扱いには要注意。間違って公開アカウントで場所などを詳しく書くと、自分のプライバシーが守れないだけでなく、鳥の情報を公開することにもなります。SNSでの情報の扱いは慎重にしたいところです。
毎日の買い物や通勤ついでの観察では、漠然と鳥を探すよりも見る種を決めて注意すると、さらにおもしろくなります。最初は、誰でもわかるスズメがお勧めです。スズメなんて、街のどこでもいるように思われがちですが、いる場所といない場所があります。同じコースを定期的に歩くと、「ああ、このあたりにはいつもスズメがいるな」と気づくはずです。
あるとき街を歩いていたら、突然、スズメの賑やかな声が聞こえてきたことがあります。どうしてこんなにスズメがいるのだろうと思いながら近づくと、そこにはお米屋さんがありました。店先には人に踏まれて砕けたお米が落ちていて、スズメはそれを食べていたのです。それ以来、お米屋さんがあればスズメがいるのではと注意して見るようになりました。どうしてそこにスズメがいるのか理由を考えて観察すると、あなたの住んでいる街がスズメにどう利用されているのかわかり、街を見る目が変わってくると思います。スズメの視点で街を見るのです。
最初に注目すべき鳥としてスズメをお勧めしましたが、気にしてほしいのは特定の種類とその行動です。どんな鳥が街で何をしていたのかまで観察すると、都市鳥ウォッチングがぐっと楽しくなります。
尾羽が長い白黒の小鳥が、地面を爆速で走っているのを見たことがありませんか? その鳥はおそらくハクセキレイです。日本全国に分布し、街中でも一年中ごく普通に見る鳥です。今でこそポピュラーな鳥の代表格ですが、今から50年くらい前までは、夏は北海道の海岸で繁殖し、冬になると本州以南で越冬する鳥でした。ところが1970年頃から夏になっても越冬地からいなくならず、一年中いる鳥に。いわゆる越冬居残りタイプの都市鳥なのです。
ハクセキレイは、街中のいろいろなところに出没しますが、とくによくいるのがコンビニの駐車場です。そのため「コンビニの鳥」や「駐車場の鳥」なんてキャッチフレーズまでつけられています。いったいぜんたい、ハクセキレイはなんでコンビの駐車場にいるのでしょう。ただ爆速で走り回っているわけではありませんから、目的があるはずです。ぜひ、つぶさに観察してその理由を確かめて見てください。ヒントは食べものです。
もうひとつ、ハクセキレイには、おもしろい観察テーマがあります。それは寝る場所で、繁華街の街路樹に集まって寝る習性があるのです。皆さんの住む街の繁華街にもハクセキレイのねぐらがありませんか? 日没頃に繁華街へ行くと見つかることがありますから探してみてはいかがでしょう。どんな街路樹を好むのか、賑やかな方がいいのかそれとも静かなところを選ぶのか、一年中、そのねぐらを利用しているのか、観察していると気になることがどんどん湧いてくるでしょう。ぜひ、その理由を確かめてみてください。まあ、そんなことを考えずに次々と飛んできて大騒ぎをするハクセキレイの動きを眺めているだけでも楽しいものですが……。
今、都市鳥研究の世界で一番の注目株は、この美しいイソヒヨドリです。海岸の磯に棲むヒヨドリみたいな鳥だからつけられた名前ですが、それは過去の話。1980年代から、海から遠く離れた地方都市でちらほらと繁殖しはじめ、1990年代後半になると近畿地方を中心に本格的に内陸で繁殖を始めたのです。現在では、ほぼ全国の内陸部の都市で繁殖する鳥になりました。おそらく皆さんが住む街にもこの美しい鳥がいるはずなので、ぜひ探してみてください。
見つけるコツは、ずばり「鳴き声」です。「ヒーリョ、ヒーリュリュ」と笛の音のような涼しげな声で囀(さえず)るので、この声さえ覚えてしまえば発見は簡単。街の喧騒の中でもよく通る声質なので、気にしていれば自然と耳に入ってくるでしょう。鳴き声は「イソヒヨドリ 囀り」などのキーワードで検索すれば見つけられます。一度覚えてしまえば、街中に似た声を出す鳥はいないので他の鳥と間違えることもありません。街の中で聞き慣れない美しい鳥の声が聞こえたら、イソヒヨドリの可能性が高いです。しかも、囀りは多くの鳥では繁殖期に限られる鳴き方ですが、本種の場合はほぼ1年を通して囀る習性があり、繁殖期以外の秋や冬でも鳴き声が発見のきっかけになります。
最後のステップでは、少し難易度が高くなりますが、猛禽類を探してみましょう。猛禽類とは、タカやハヤブサ、フクロウなどの肉食の鳥の総称。探す場所は、もちろん駅やその周辺の繁華街です。なかでも、駅ビルのある比較的大きな駅が狙い目。近くに大きな川や湖があるような条件だとさらに見られる確率が上がります。
都市に棲む猛禽類で、もっともよく見られるのがハヤブサの仲間のチョウゲンボウです。元々は、川の崖に巣を作る習性があったのですが、1970年代からビルのテラスなどで営巣するようになり、今ではすっかり都市鳥に。チョウゲンボウはビルを崖に見立てたのです。獲物はネズミや小鳥なので、街中ではなく河川敷などへ捕りに出かけることが多いようで、街は繁殖の場として利用しています。ひらひらとした感じの独特な飛び方と尾羽が長いスマートな姿は一度覚えれば忘れません。また、「キッキッキッキッ」と高い声で鳴き、この声で気がつくこともあります。
チョウゲンボウの他に、ハヤブサも駅周辺のビルにいることがあります。こちらは街にたくさんいるハトやムクドリが狙い。タワーマンションの屋上にとまって獲物を見つけると急降下して襲います。もし、こんなシーンが目撃できたら、あなたは都市鳥ウォッチングがやめられなくなるかもしれません。都市鳥を見つける最大のコツは「ここにはきっといる」と思って探すこと。その信念があれば見つかるでしょう。
実践したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください
都市鳥という言葉ができたのは、1982年のことだそうです。1970~1980年代は、冬鳥だったヒヨドリやハクセキレイなどが都会でも繁殖を開始し、それを追うような形で猛禽類までもが都会に姿を見せはじめるなど、都市鳥のメンバー構成が大きく変化した時期で、それに気がついた研究者がこの造語を産み出しました。ちょうどこの時期の日本は、高度成長期が終わり、都市にはビルや高速道路などのコンクリート建造物が増え、戦後に植えられた街路樹が大きく成長したころ。街の構造が変化したことで、都市鳥の種類も変化したのです。また、愛鳥教育の浸透や経済的な余裕が出た影響か、鳥に対して攻撃的な人が減り、都市に棲む鳥が人を怖がらなくなりました。それから約40年たった現在でも、常に街の構造や人の意識は変わり続けているので、これからも都市鳥はどんどん変化し、思いがけない鳥が棲みつくこともあるでしょう。都市鳥ウォッチングはその変化を目の当たりにすることになり、とてもエキサイティング。鳥を通して街や人の心の変化を知ることができるとても知的でおもしろい趣味なのです。