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魚を熟成させて変化を五感で感じ取る

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井上綾乃

おさかなマイスター・編集者
自分の舌で鮮度と味を確かめる

ここ数年で、肉や魚の身は新鮮なものだけではなく、数日寝かして熟成させたものもおいしいことが知られ始めました。また、お寿司屋さんでも仕入れたばかりの鮮度の高いお魚をすぐに出さずに熟成させた魚を出すお店もあります。

おいしさは主観に大きく左右されます。鮮度が高くて身が締まり、歯応えのある鮮やかな色味のものがおいしい、と感じる人もいれば、熟成が進んでやや柔らかくなった甘い身がおいしいと感じる人もいます。その中間を好む人もいるでしょう。

一度に食べきれない魚を手に入れたときは、魚の熟成を試してみるチャンス。釣りたてから数日かけて食べ比べれば、自分がどんな歯触りと味を好むのか知ることができます。魚の熟成の仕組みと熟成させるための技術を知り、味の変化を五感で感じ取ってみましょう。

READY
準備するもの
  • 釣具

    一式

  • 生きた白身魚

    数匹

  • クーラー

    1個

  • バケツ

    1個

  • ナイフかハサミ

    1個

  • キッチンペーパー(不織布タイプ)

    1巻

  • ラップ

    1巻

STEP 1

生きた白身魚を手に入れる

  • 手軽に挑戦できる防波堤釣り
  • 船釣りはある程度釣果が約束される
  • カサゴ。白身魚が熟成に向く

魚を熟成させる場合、生きた魚を調達するのがベストです。魚の熟成において、生きた状態で行う血抜きと締めの作業が重要だからです。また、釣り上げてから口に運ぶまで、温度を低く保てているかどうかも重要です。自分で釣り上げた魚なら、この2点について確実な処理ができます。

熟成には、カサゴやハタ、タチウオといった白身魚が向いており、サバやアジ、イワシなどの青魚は不向きです。青魚は変質が早く、新鮮に見える状態でもヒスタミン中毒が発生します。開いた身が赤みを帯びる魚はヒスタミンの素となるヒスチジンが多い傾向があるので、不慣れなうちは熟成させないほうがよいでしょう。

ヒスタミン中毒を引き起こすヒスタミンは、身に含まれるアミノ酸の一種のヒスチジンを細菌が分解することによって発生します。「鯖の生き腐れ」といった言葉もある通り、比較的鮮度が高くても起こりえます。ヒスタミンは加熱処理をしても分解されません。ヒスタミンが多い魚を食べると、舌にピリピリとした刺激を感じるので、食べたときに違和感を覚えたら食べるのをやめましょう。

POINT

熟成は食中毒の危険が伴うチャレンジなので、使用する器具の清潔さや釣ったあとの温度管理には注意が必要です。挑戦するなら魚の鮮度を保ちやすい秋や冬がおすすめです。また、消化能力の低い乳幼児は絶対に食べさせないでください。

STEP 2

エラを切って血を抜く

  • 血液が集中するエラを切る
  • 海水を張ったバケツに入れる
  • 血抜けた魚(下)と失敗した魚(上)

魚に身体的・精神的にストレスを与えると身のなかにあるATPという旨味成分の素が消費され、食味が低下してしまいます。そのため、魚を鉤にかけたあとはできるだけ素早く取り込んで暴れさせないように心がけて処理します。

魚通が魚を〆るときの手順は、①ナイフや専用の錐で脳を突いて〆る②片方のエラを切って水に浸ける③神経にワイヤーを通して神経を砕く、となりますが、入門者は②の片方のエラを切って水に浸ける、だけを行えば十分です。海水に氷を入れて片方のエラを切った魚を浸ければ、心臓がポンプの役割をはたして魚の血が流れ出ていきます。

POINT

身に血液が残ると雑菌が繁殖し、腐敗につながりやすくなります。熟成させずに鮮度が良い状態でいただく場合でも、血のにおいをなくしたほうがおいしくいただけるので、血抜きは覚えておきたい技術です。

STEP 3

冷やして持ち帰る

  • 冷たすぎない海水で冷やして持ち帰る

血抜きが済んで絶命したら、海水を氷で冷やした「潮氷」に魚を入れて温度を下げます。このときにキンキンに冷やしすぎたり、氷が魚体に直接あたっていたりすると身が変質しておいしさが半減します。また、水道水に氷を加えたもので冷やすとATPが消費されるので真水も好ましくありません。

冷やし込んだあとは、氷を入れたクーラーで持ち帰ります。このときも氷に直接あてないように注意します。完全に水を抜いて「氷で冷やした空気」で魚を低い温度に保つのが理想ですが、これは初心者には難しいので、冷え過ぎていない海水に浸けた状態で持ち帰れば十分です。

POINT

冷やし込みに水道水を使うとカルキによって細菌が繁殖しにくくなる効果がありますが、浸透圧の違いから魚の身に水分が入り込み、水っぽい食感になります(塩分の高い魚の身が、まわりの水を吸い込んでしまう)。

STEP 4

比較検討用にカットする

  • 大きめに切ると劣化しにくい

魚の変質と腐敗は内臓と血、体表の粘液から始まるので、持ち帰ったら頭と内蔵を取って、腹の中をきれいに洗って血を取り除きます。洗った魚をキッチンペーパーなどで拭いて水気を取り、その身をキッチンペーパーで包み、さらにラップで包みます。これで熟成の準備は完了。冷蔵庫で寝かせて熟成させていきましょう。

魚は部位によって味が違うので、食べ比べをする場合は同じ部位を保存するとよいでしょう。今回は大きなタチウオ胴の真ん中で実験してみました。身は酸素があたる部分から悪くなるのでなるべく大きめにカットしておきます。

POINT

カットした魚の身から体液がにじみでて魚に臭みがついてしまうので、キッチンペーパー(不織布タイプ)で包んでラップをして冷蔵庫にしまいましょう。

STEP 5

毎日食べてメモをとる

  • 試食では調味料をつけない
  • タチウオの食味の変化

カットした身には調味料をつけずに味わいます。このとき食べる前に匂いを嗅ぐ、色味を見る、舌に乗せて噛む。鼻から抜ける匂いを感じる、など一定の項目を決めて連日食してみましょう。今回は6日間行っていますが、魚の扱いに不慣れな方は4日程度にとどめておきましょう。

表を見ていただくと、魚の味わいが次第に変わっていくことがわかると思います。鮮度によって味が変わるのはイメージできると思いますが、具体的に魚の身のなかではどんな変化が起きているのでしょうか?

新鮮な魚はたんぱく質がしっかりとしていて、泳ぎ回るときのエネルギー源であるATPも豊富に含まれています。これらの物質は熟成させる間に身の中に含まれる酵素によって分解されて、タンパク質は旨み成分であるアミノ酸に、ATPも旨み成分であるイノシン酸へと変化します。この旨み成分こそが熟成魚のおいしさの理由です。

これらの旨みはあるタイミングでピークを迎え、そのあとは身の劣化による風味の低下が勝っていき、やがて腐敗に転じます。

POINT

可能なら、同じ魚種で熟成させたものと新鮮なものを同時に味比べできると熟成による変化が感じ取りやすくなります。今回はウロコがないタチウオで試しましたが、マダイなどの身がゆたかな白身魚もおすすめです。熟成を通り過ぎて腐敗の気配を感じたら、食べるのをやめましょう。

STEP 6

『やった!レポ』に投稿しよう

完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。

MATOME
まとめ

「新鮮な魚ほどおいしい」という考えは、見栄えや歯触りの面では真実ですが、旨みに限れば熟成させた魚のほうが数段上回ります。鮮度が重要視されたのは、今ほど冷蔵技術が発達していない時代には、変質させずに保つことが難しかったからでしょう。

生きたものを釣り上げて〆、血を抜いて保冷できるようになった現代では、釣りたてから熟成させたものまでの味の移り変わりを楽しめます。熟成魚のおいしさを知れるのは自分で魚を釣った人の特権です。

しかし、熟成させればさせるほどおいしくなるわけではありません。保存した魚は、いつか熟成を超えて腐敗の域に入っていきます。この熟成と腐敗の間にはグラデーションがあります。旨みのピークを過ぎて劣化が始まり、やがて口にしたくないと思うほどのにおいが立ちます。

この身質の変化を知ることこそ、熟成を試すことの醍醐味です。身の色やハリ、においがどのように変化するかを知っていれば、スーパーに並ぶ魚の鮮度を自分で見極めることができます。そしてそれは、口にする魚の安全性を自分で判断できる力を手に入れたことの証でもあるのです。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性4
4知性
4感性
アクティビティ
食べる
環境
季節
秋 ・ 冬
所要時間
1日以上
対象年齢
小学生高学年以上
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