人類をちょっとワイルドにする自然体験を集めた、体験メディア「WILD MIND GO! GO!」編集部。
自然の中の体験を通して、普段の自分がちょっとワイルドに変わって行く、そんなステキなアイディアを集め毎週皆さんへお届けしています。
サンドイッチの味付けやウインナーの付け合わせに使われる粒マスタードはペーストの和カラシよりも風味が強く、食材をひと味もふた味も美味しくします。お店では小瓶がそれなりの価格で売られていますが、実は自作するのはそれほど難しくありません。カラシナが種子をつける初夏、河川敷に生えた野生の株から粒マスタードをつくってみましょう。
カラシナはアブラナ科の菜の花の一種。より正確な名前はセイヨウカラシナとなります。明治時代に日本にやってきて、今では全国の河川敷などで野生化したものが見られます。温暖な地域では晩秋に芽を出し、春まだ浅い時期から新芽を伸ばし、4月ごろに黄色い花をつけます。そして6月になると種子が熟し、全体が立ち枯れます。この株から種子を採集します。
野外で見られる菜の花の多くは、セイヨウカラシナかセイヨウアブラナの2種。草姿はどちらも似ており、枯れている状態で識別するのは入門者には困難です。そんなときは手近な株からさやをひとつふたつ外して種子を採集してみます。歯でその種子を噛み砕いたときに爽やかな辛味が感じられたら、その株はカラシナです。
種子の収穫は6~7月の晴れた日に行います。レジャーシートをカラシナの株の下に広げ、根元側から揉むようにして種子の入ったさやをこそげ落としていきます。この作業は株が乾いていないとできないので、天候だけでなく株の乾燥度にも注目しましょう。
シートで受けたさやと種子は、細かい目の空いたザルにくぐらせて種子だけを分離していきます。ザルは金網を編んだものより、パンチングで穴を開けたもののほうが目詰まりしにくく作業性が高まります。
一度くぐらせただけでは不純物が濾しきれないので、種子は何度かザルにくぐらせます。不純物がある程度取れたら今度は「風」の出番。ザルの中の種子を跳ね上げて風に当てると、比重の軽いゴミだけが風に吹き払われてボウルの中に種子だけが残ります。この作業はちょっとコツが必要なので、慣れるまではふたつのボウルを用意して、片方のボウルを傾けて少しずつ種子をこぼし、それをもうひとつのボウルで受けるようにするとよいでしょう。ふたつのボウルの間を種子が落下する間に、風によって不純物が吹き払われます。
この作業で軽い不純物は取れるのですが、カラシナの種子の比重と近い微細な昆虫類は残ってしまいます。この虫たちは種子を新聞紙などの上に広げて日光を半日ほど当てると逃げ出していきます。
ゴミと虫の分離が済んだ種子を煮沸消毒した瓶に入れ、酢を注ぎます。酢に漬けられた種子は酢を吸って膨らむので、種子の量は瓶の容量の5~6割にとどめ、種子全部が浸かりきる量の酢を注ぎ入れます。冷蔵庫に入れて1日待つと種子が液面より上まで膨らむので、さらに酢を追加して種子が吸い切れるだけの酢を吸わせます。酢の含浸は冷蔵庫の庫内で3、4日おけば十分です。吸わせる酢は米酢、穀物酢、ワインビネガー、リンゴ酢……のどれでもOK。吸わせる酢によって仕上がりの風味が異なるので、いくつかの瓶に分けていろいろ試してみるのも楽しいでしょう。
種子が酢を吸って膨らんだら、すり鉢に移してすりこ木で種子を砕いていきます。このとき、塩を添加して塩気の調整を行います。塩は酢を入れるときに同時に加えてもよいのですが、潰すときに少しずつ加えて味見を繰り返すと、過不足なく調整できます。レシピによっては、ここでハチミツを加えることも(甘みと爽やかさが追加されます)。塩以外の添加物は必須ではないので、お好みで好きなものを加えるとよいでしょう。すり鉢がない場合は、フードプロセッサーなどで砕いても問題ありません。大量につくるならフードプロセッサーが便利ですが、粒を細かくし過ぎると、口にしたときの弾ける食感や香りが薄まります。
種子を砕くとツンとした香気が鼻をくすぐります。完成直後は角が立っていますが、瓶に詰めて冷蔵庫で4、5日寝かせると全体に馴染んで風味が落ち着いてきます。エグ味や苦味も寝かせるとまろやかになります。
塩分の濃度が一定以上あり、雑菌などの混入が少ない場合は数週間から数ヶ月冷蔵庫で保存可能です。しかし、塩気や酢が足りなかったりするとカビが生えたりすることも……。表面にオリーブ油や米油を流し入れ、油で外気を遮断してカビの発生を防ぐ方法もありますが、不慣れなうちは早めに食べ切ってしまうほうが安心です。また、喫食の際には異臭や異変がないか目と鼻で確かめましょう。
完成したら、いろんな料理と合わせて楽しんでみましょう。やはりソーセージやベーコンなどとの相性が抜群ですが、浅漬けなどの日本風の料理に合わせても意外な力を発揮します。使う際は清潔なスプーンで必要量をすくうようにすると雑菌の混入を避けられます。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
セイヨウカラシナは新芽や種子を食材として利用できる反面、ときに河川敷などで大群落をつくって在来の植物を圧迫します。そのことから「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」にも数えられています(ですから、種子を元々生えていない場所に蒔くのは厳禁です)。外来種の繁殖力が旺盛なのは困りものですが、せっせと食べても環境に悪影響はありません。むしろ良い効果を与えると考えることもできます。野生食材の採集においては資源量への配慮が欠かせませんが、セイヨウカラシナに関しては存分に採集できるのです。一年ぶんの粒マスタードの素材の収穫に必要な時間は数時間。初夏の晴れの日に採集に出かけてみるのはいかがでしょう。