主に北海道や東北地方で、きのこや粘菌など「隠花植物」を中心に撮影を続けている。著書は『もりの ほうせき ねんきん』(ポプラ社)、『森のきのこ、きのこの森』(玄光社)、『粘菌生活のススメ』(誠文堂新光社)、『きのこのき』(文一総合出版)、『毒きのこ 世にもかわいい危険な生きもの』(幻冬舎)、『きのこの話』(筑摩書房)など。人気インターネットサイト・ほぼ日刊イトイ新聞で「きのこの話」を連載中(毎週菌曜日更新) http://www.1101.com/kinokonohanashi/
本人ウェブサイト「浮雲倶楽部」http://ukigumoclub.com/
きのこ、と聞くと食べ物だと思う人がけっこう多いのではないかと思います。スーパーマーケットへ行けば、シイタケやエノキタケなど、たくさんのおいしいきのこが売られていますし、それより何より、今まできのこを食べたことがない人は、きっといないでしょう。
ですから、間違って食べてしまった場合、いろいろな中毒症状が出たり、ときには死んでしまうことすらある毒きのこは、人間に害を及ぼすものとして、ある意味、忌み嫌われている存在かもしれません。
しかし、少しだけ見方を変えて、きのこを食べ物ではなく、例えば野に咲く花のように、自然の中で生きている生物として観察してみたらどうでしょうか?じっくり見てみると、きのこは、色も、形も、大きさも、本当に多種多様で、見れば見るほど、知れば知るほど、本当に興味深い生物なのです。
たとえ人を殺すほどの猛毒を持っているきのこでも、観察するだけならまったく問題はありません。美しい毒きのこもあるし、かわいい毒きのこだってあります。
さあ、いろいろなきのこを探しに出かけてみませんか?
地球の生物は、動物や、植物など、種類によっていろいろ分類されていますが、きのこは菌類です。菌類とは、簡単に言うなら、体の基本的な構造が糸のような菌糸でできていて、胞子で増える生物。植物の仲間だと勘違いしている人もいますが、どちらかと言えば動物に近い存在です。菌類には、カビやきのこや酵母が属しており、目に見える大きさのきのこ(正確には胞子をつくって放出するための生殖器官で「子実体」と言います)をつくるのがきのこ、つくらないのがカビです。実は、カビときのこに、生物的な違いはありません。
菌類は、世界に150万種(一説には500万種!)ほど存在すると推定されていますが、現在名前がつけられているものは約10万種で、そのうちの2万種がきのこです。日本では少なくても5000種のきのこが生息していると言われており、正式な名前がつけられているきのこは約3000種ほどです。
ひと口にきのこと言っても、その形や、色や、大きさは、千差万別。同じ種類でも個体差や地域差がけっこうあります。十人十色、というか、十菌十色です。
もし人が誤って食べてしまった場合、腹痛や下痢や嘔吐など胃腸系の中毒を起こしたり、精神錯乱状態になるなど神経系の症状が出たり、ときには命を失うこともある毒きのこ。食べられるきのこにそっくりな毒きのこもたくさんありますから、知らないきのこは絶対に食べないようにしましょう。人間には有害でも他の動物や昆虫には無害の毒成分もあります。
毒きのこが、なぜ、なんのために毒を持っているのかは、まだはっきりとはわかっていません(きのこを食べる一部の昆虫に対しては防御効果があるらしいのですが……)。長い進化の過程で、きのこがたまたま獲得した物質が、人間にとっては毒だったということですね。今後、ますます研究が進んで、いろいろなことが解明されることでしょう。
きのこは、枯木や落葉などの生物遺骸を無機物へと分解還元する「分解者」の役割を担ったり、お互いに栄養をやりとりすることで木の成長に一役買ったり、動物や昆虫の食料になったりと、自然の生態系の中で欠かせない存在です。もちろん毒きのこも同じ役割を担っています。もし、毒きのこ、あるいは、知らないきのこを見つけたら、ひとつの生物としてじっくり観察してみましょう。
きのこは秋に発生すると思っている人が多いかもしれませんが、実は1年中発生しています。冬に発生するもの、春に発生するものなど、種類によって発生時期は異なりますが、サルノコシカケの仲間のように、多年生で、年々大きく育っていく種類もあります。
きのこは植物ではないので光合成ができません。したがって、生きていくための栄養を動物と同じように外部から得なければなりません。つまり、きのこを探すには、きのこが好む「食べ物」がある場所を探せばいいわけです。
きのこは、その栄養のとり方で、生物の「死体」や排泄物などから養分を吸収する「腐生菌」、植物とともにつくった、菌根という器官を通じてお互いに栄養のやりとりをする「共生菌(菌根菌=きんこんきん=ともいいます)」、生きた生物にとりついて一方的に栄養を得る「寄生菌」と、主に3つに分けることができます。腐生菌は枯木や倒木や落葉などから、共生菌(菌根菌)は地面から、寄生菌は生木や昆虫やきのこなどから発生します。
「STEP1」でも少し説明しましたが、きのこの本体は、土壌や倒木などの中で伸びている糸状の菌糸なので、目にすることはほとんどありません。わたしたちが一般的に「きのこ」と呼んでいるものは、生殖器官である「子実体」のことで、通常は、1日~1週間ほどで腐ってしまいます。
初心者が野外で食べられるきのこを見つけるのはほとんど不可能です。ですから、初心者は、まず、すべてのきのこを毒きのこだとみなし、食べることを考えずに、観察して楽しみましょう(きっと見るだけでもすごく楽しいはずです!)。
きのこが生える場所、言い換えると、きのこの「好物」は、生きている木はもちろん、枯木、倒木、落葉、木の実、地面、昆虫、死体、糞などなど、本当にさまざま。つまり、きのこは身の回りのどこでも生えている可能性があります(押入れの中とか、お風呂場とか、野外に捨ててあった畳や本から発生した例も!)。
自宅の庭、校庭、街路樹、神社仏閣、公園など、町中で、多少大きな木が生えていたら、目の高さくらいから地面までじっくり観察してみましょう。もし古い木ならきのこが見つかる可能性も高くなります。お休みの日には、ちょっと遠出して、雑木林や里山、さらには、自然がたっぷり残っている山や森へ出かけてみてください。
服装は、動きやすくて多少汚れても構わないものがいいでしょう。手鏡を持っていくと、地面に生えている小さなきのこであっても、傘の裏側を簡単に観察することができます。
きのこを探す場合は、私有地に許可なく立ち入らない、危険な場所に近づかない、他人の迷惑にならないなど、基本的なルールを必ず守りましょう。勝手に採取するのも厳禁。きのこの採取が可能かどうか事前に調べてから出かけましょう。
きのこを観察すれば、きっと、可愛らしさや美しさに気づくはず。記録のためにも、記憶のためにも、写真に撮ってみましょう。
使用するカメラは何でもオーケー。もちろん、スマホなどでも構いません。写真を撮影するのが面白くなってきたら、改めて、きのこ撮影に便利なカメラを用意しましょう。ちなみに、ぼくは小型軽量でレンズが交換できる、ミラーレス一眼タイプのカメラを愛用しています。
上手に撮影するコツは、とにかく、対象のきのこを、見て、見まくること。ぐっと顔を近づけて、いろいろな角度からきのこを眺めてみましょう。見る角度によって、きのこの形や色が微妙に違うことに気づくはず。自分がいちばん好きだと思う部分を意識して撮影しましょう。立ったままで、上からきのこの傘だけを写すだけでは、せっかくのかわいいきのこが可愛そうですよ。
傘の表面、傘の裏側、柄、そして生えている場所(木の種類)など、いろいろなパーツの写真をできるだけたくさん撮っておくと、あとできのこの名前を調べたいときにも役立ちます。
きのこを見つけたら、写真を撮影して、『やった!レポ』に投稿してみましょう。生えていた場所や、きのこの特徴、いろいろ感じたことなどを、コメントして、みんなでシェアしましょう。
きのこを観察することは、自然のことを考えることであり、自分自身と向き合うことでもあります。実際に、見たり、触ったり、聞いたり、匂いをかいだりする、リアルな自然体験は、インターネットやテレビや本では決して得ることができない楽しみであり喜び。本できのこを見るのと、実物のきのこを見るのとでは、感動の度合いが天と地ほど違います。ぜひ、野外へ出かけて、きのこや自然とふれあう機会をつくってください。そして、きのこのこと、自然のことを、いろいろ考えてみたり、調べてみたりしてください。
きのこの同定は、上級者でも大変です。図書館などで複数の図鑑を調べてもわからない場合は、お住いの近くにある各種きのこの会(観察会などもけっこう頻繁に開催されているはず)、大学など菌類の研究機関、あるいは保健所などに問い合わせると、教えてもらえる場合があります。また、インターネットでは写真できのこの同定をしてくれるサイトもあるようです。
もっときのこのこと、毒きのこのことを知りたい人は、ぼくの著書も参考になるかと……。http://ukigumoclub.com/index_06.html