野生動物学を専攻。並行して行っていた自然保護ボランティアで出合ったインタープリターを志す。現在は高尾ビジターセンターインタープリター、高尾599ミュージアム解説員として、年間250万人ともいわれる来訪者と、高尾山の豊かな自然と歴史をつなぐべく奮闘中。
また、 野外フェスが自然と人が近づく場所となることを目指して、会場の自然を楽しむワークショップやガイドプログラムを展開している。
株式会社自然教育研究センター:http://www.ces-net.jp
高尾ビジターセンター:http://takaovc599.ec-net.jp
5月のゴールデンウィーク頃から高尾山の登山道を歩いていると、ところどころに葉っぱが丸められた巻物のようなものが落ちています。しっかりと巻かれた、大きさ2cmから4cmくらいこの葉巻は、いったい誰のしわざでしょう?
実は、「オトシブミ」という甲虫が、卵を守るために作った葉っぱのゆりかごで、中には卵が1つ産み付けられています。オトシブミの名前は「落とし文」が由来です。その昔、人々は大きな声では言いにくいことを巻物にして道に落としていました。ラブレターも同じように落とされていたようです。オトシブミが落とす葉巻が、その巻物にそっくりだったため、こんなにロマンチックな名前がつきました。
葉巻をつくるオトシブミの仲間は日本に30種類いて、北海道、本州、四国、九州など、幅広く分布しています。
このHow toでは、高尾山の登山道をゆっくり歩きながら、この葉巻をつくった張本人である「オトシブミ」を探す方法を紹介します。
オトシブミを見つけるためには、まず葉巻を探してみましょう。高尾山の登山道を、地面に葉巻が落ちていないか探しながら歩きます。特に、上に木がある場所は見つかる可能性が高くなります。比較的、道の真ん中よりも端に落ちていることがあります。
高尾山にはいくつかコースがありますが、距離 3.8kmの「表参道コース 1号路」が探しやすいですよ。途中までケーブルカーやリフトで行けるので、山道に慣れていない方にもおすすめです。
葉巻が見つかったら、その場所の上の目の届くところにある葉っぱを、よく観察してみましょう。付け根を少し残して、切り取られた葉っぱがあれば、ここから落ちた葉巻かもしれません。
葉巻が落ちていた場所の近くや、葉っぱが切り取られている木をよく見てみると、1cmほどの昆虫がとまっていることがあります。実はこんなに小さな虫が葉巻をつくった張本人のオトシブミです。
写真は「ヒゲナガオトシブミ」と呼ばれる種類のオトシブミです。葉巻は揺籃(ようらん)と呼ばれます。では、なぜオトシブミは葉巻をつくるのでしょうか。
葉巻をつくるのはオトシブミのメスで、彼女たちは子どもが安全に育つために葉巻をつくります。この葉巻の中には卵があって、卵からかえった幼虫は、葉巻の中を食べて育ちます。オトシブミのお母さんは、子どもが食べられる葉っぱを選んで葉巻をつくっています。さらに、葉巻の中を食べてもまわりが覆われているので、幼虫が鳥やその他の生きものに食べられずに、安全に育つことができます。
でも、葉巻づくりは大仕事。ヒゲナガオトシブミを人間の大人に例えると、葉っぱはテニスコート1面分の大きさで、つくるのに1時間から2時間もかかります。オトシブミは子どものために、一生懸命お弁当とゆりかごをつくってあげていると言えますね。
オトシブミがつくる葉巻の中には、落とさないものもあります。登山道の脇にある木を見てみると葉巻が木にぶら下がっていたり、たくさんのカエデの葉がまとまっているものなど、様々な形の葉巻が見つかります。
葉巻が落ちていた場所の近くの木をじっくり観察してみましょう。運が良ければ、ちょうど巻いているところに出会えるかもしれません。
「ヒメゴマダラオトシブミ」(写真)は、落とさないタイプの葉巻をつくります。葉っぱを縦半分に折って、卵を産んでから先端から巻いていきます。途中、巻きやすくするために葉の主脈をかじりながら、最後は葉がもとに戻らないように折り返して完成です。驚くべきことに、糸などの接着剤を使わずに仕上げます。
オトシブミはびっくりすると、葉を巻くのをやめてしまったり、身を守るためにコロッと下に落ちてしまいます。じっくり観察するためには、オトシブミを驚かせないようにそっと見守るのがコツです。
オトシブミや、きれいに巻かれた葉巻を見つけたら、写真を撮って『やった!レポ』に投稿しましょう。「こんなところで見つかった」「こんな巻き方えをしていたよ」など、気がついたことがあれば、コメントに書いてみんなと共有しましょう。
落ちているオトシブミの葉巻を拾って観察してみると、そのつくりの精巧さに驚かされます。人が真似して巻いても、同じようにはできません。
オトシブミの仲間は、種類によって食べる植物が変わります。言い換えると、植物の種類が多いほど様々なオトシブミが見られます。たくさんの植物がある高尾山は、いろいろなオトシブミを見るのに絶好の場所なのです。
初夏から初秋にかけてさまざまなオトシブミが見られます。葉巻を探しながらハイキングをしてみてはいかがでしょうか。