狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
家庭でも野外でも、私たちはいろんな目的で火を使います。明かりを得るため、濡れたものを乾かすため、熱を加えて殺菌するため、体を温めるため……。なかでも最も身近な使い道が食物の調理でしょう。
家のガスコンロと比べると、野外で燃やす焚き火は大きく、近くに寄れないほどの熱を発することもあります。それなのにどうでしょうか。お湯を沸かしたり、食材を調理してみると意外にも時間がかかるものです。
これは家庭で使うガスの炎のほうが、焚き火の炎よりも温度が高いこともありますが、もうひとつ理由があります。それは、焚き火は周囲に熱を拡散するタイプの燃え方をし、ガスコンロは一点に熱を集中する燃え方をしているから。焚き火は周囲に熱を撒き散らすので、体で感じる温度のわりに食材に伝わる熱が少ないのです。
焚き火をおこした目的が調理なら、食材の加熱に使われなかった熱はエネルギーの無駄づかいをしたことになります。薪も有限の資源ですから、使う量を少なくするにこしたことはありません。
少ない薪から効率よく熱を取り出すなら、熱を一点に集中させられるストーブが効果的。燃焼効率の高いストーブは薪を減らせるだけでなく、煙やススの量も少なくできます。
近年、世界中で研究が進んでいるのが「ウッドガスストーブ」や「ウッドバーニングストーブ」と呼ばれるタイプのストーブ。火床からの放熱を抑え、燃焼に使う空気を予熱することで、小さな炉でも大きな熱を得ることができます。
そして、このストーブの製作に必要な材料は3つの空き缶だけ! 数百円の材料費で、驚くほどよく燃えるストーブを作ってみましょう。
空き缶 大・中・小
各1缶
電動ドライバドリル
1個
ステップドリル
1個
金切ばさみ
1個
ペンチ
1個
缶切り
1個
コンパス
1本
白い紙
1枚
革手
1組
定規
1本
油性ペン
1本
材料となるのは大きさの異なる3つの空き缶。大きいものは炉の外殻、中くらいのものは炉の燃焼室、小さいものは鍋などを載せるためのゴトクになります。大きい空き缶は密閉できる鉄の蓋があることが必要ですが、中くらいの缶と小さい缶は上側があいていても使うことができます。今回は塗料の収納缶と100円ショップで売られている灰皿、あずきの缶詰を使いました。
これらの缶の穴あけに活躍するのは「ステップドリル」という階段状のドリルビット。この道具があると、手軽に空き缶に丸い穴をあけることができます。
缶の切り口は鋭いので、缶を切る作業中は革手を着用しましょう。
大きい缶と小さい缶には8ヶ所、中くらいの缶には16ヶ所の穴をあけます。等間隔に穴の位置をしるすため、白い紙にコンパスを使って2つの円を描きます。円の大きさは小さい缶と大きい缶の直径よりも少し大きいもの。
これをケーキをカットするように中心を通る8等分と16等分する線を描き入れます。この円の真ん中に缶を置いて、線に合わせて油性ペンで穴の位置をしるします。
大きい缶の周囲にあける穴の数は8ヶ所。缶の底から2cmの高さに油性ペンで点をうち、そのしるしを中心にして、直径2cmの穴をステップドリルであけていきます。
缶の周囲に8ケ所の穴があけられたら、今度は大きい缶の蓋を加工。大きい缶から蓋を取りはずしてから、中くらいの缶を重ねて、中くらいの缶の円周を蓋にうつしとります(写真2枚目)。
蓋に中くらいの缶の円周をうつしとったら、その円よりも内側にドリルでひとつ穴をあけ、そこから金切りばさみを挿入。油性ペンのマーキングよりも5mmほど内側を丸く切り抜きます。
切り抜きが済んだら、中くらいの缶がぎりぎり通る程度の大きさに穴を調整しましょう。今度は抜いた丸い穴の縁から、マーキングした円まで細かく切れ目を入れて短冊状のバリを加工。続けて、バリをペンチで下側に折り曲げます(写真3枚目)。
今回はあらかじめ穴のあいている灰皿をひっくり返して使用しました。灰皿をひっくり返して、缶切りで底部を切り抜いて使います。
中くらいの缶にあける穴の数は16ヶ所。缶切りで切り開いた側の端から1cm程度の場所に油性ペンで点をうち、そのしるしを中心にして、直径5mmほどの穴をステップドリルであけていきます。
今回は穴の開いている灰皿を使っていますが、果物の缶などを使う場合は、底に1cm程度の大きさの穴をたくさんあけておきましょう。
小さい缶にあける穴の数は8ヶ所。缶の底面から2cm程度の場所に油性ペンで点をうち、そのしるしを中心にして、直径2mmほどの穴をステップドリルであけていきます。ステップドリルで穴あけが済んだら、穴のひとつに金切りばさみを入れて、長方形の開口部を切りひらきます。
この開口部は、鍋を載せているときに薪を追加するためのもの。開口部の大きさは薪が投入できればどんなサイズでもよいですが、大きすぎると鍋の重みを支えられなくなります。ドリルの穴2個分をつなぐ程度で十分です。
この開口部も、切り端に5mmほど切り込みをたくさん入れてペンチで折り返し、触れても危なくないように加工しておきましょう。
大中小の3つの缶が加工できたら、それぞれを組み合わせます。といっても、大きい缶に加工して穴をあけた大きい缶の蓋をし、中くらいの缶を挿入。
そこに小さい缶を載せるだけ。大きい缶と中くらいの缶はぴったり組み合わないとうまく空気が通らないので、ペンチで調整しながら挿入しましょう。
小さい缶はゴトクの役割を果たしますが、缶の大きさによってはうまく載らないことも。その場合は薪の投入口の反対側を切りひらき、筒をC字型にすることで対応できます。
ウッドガスストーブは、2重構造の缶のなかで薪を燃やすことで燃焼効率を高めています。最初に中くらいの缶の底で薪が燃えます。そうするとその熱で中くらいの缶と大きい缶の間の空気が熱くなります。その空気は中くらいの缶の上部にあけた穴から供給され、底部で燃えきらなかった可燃性のガスと混ざり、再び燃焼します。ウッドガスストーブは、缶の底部と上部で2度燃焼することで効率を高めているのです。ですから、「底部での燃焼」と「上部での燃焼」にそれぞれスムーズに空気が供給されることが重要です。
それでは、できあがったストーブをチェックしてみましょう。上部にあけた穴は大きい缶の蓋のバリにふさがれていないでしょうか? 穴が塞がっている場合は、バリを開いて空気が通るようにするか、再度もう少し低い位置に16ヶ所穴をあけ直しましょう。
次に、大きい缶の穴から中くらいの缶の位置をチェック。中くらいの缶の底が大きい缶の底にぴったりくっついていると空気が供給されません。缶の大きさの都合でどうしてもスペースが作れない場合は、中くらいの缶を取り出して、底側のサイドにいくつか穴をあけましょう。
ウッドガスストーブの燃料となるのは、直径2mm~1cm程度の小枝。最初に缶の底に紙くずを入れて着火し、そこにがさっと細めの小枝を投入。炎が安定したら、太めの枝をいれてもきれいに燃焼します。薪はあっという間に燃え尽きてしまうので、薪はこまめに追加しましょう。
燃焼が安定したあとに炎から煙が出ず、中くらいの缶の上部にあけた穴からも炎が吹きだしていればストーブ作りは成功! 煙とは水蒸気や燃えきらなかったガスの残りなので、煙が出ないということは無駄なく燃えきっている証拠です。炎がいつまでも安定しない、煙が出るといった場合は、ストーブの構造に問題があるか、薪が湿っているはず。炎をよく観察してなにが原因か見極めましょう。
空き缶ストーブを作ったら、写真にとって『やった!レポ』に投稿してみましょう。
シンプルな構造なのに、飛躍的に燃焼効率を高めてくれる空き缶ストーブ。焚き火では焚き付けにしかならないような小枝でも、空き缶ストーブを使えばお湯を沸かし、米を炊くことができます。キャンプや野遊びで活躍するのはもちろん、自然災害への備えとしても空き缶ストーブは有効です。災害時に電気やガスが寸断されても、近くの公園や川原を歩くだけで1日ぶんの調理に十分な薪を集められるでしょう。また、空き缶ストーブは「理想的な燃焼」についても教えてくれます。熱を散らさないこと、可燃性のガスをきれいに燃やしきること、火床を高温に保つことなど、上手な焚き火に必要な条件が空き缶ストーブには詰まっています。空き缶ストーブを自作してその炎をよく観察すると、ふだんの焚き火も数段上達するはずです。