1972年生まれ。小学生時代、父親と庭に餌台を作って野鳥を呼んだことがきっかけでバードウォッチングにどっぷりはまる。その後、自然環境保全を学ぶために大学へ。千葉大学大学院園芸学研究科修了。技術士(環境部門)。12才からの恩師である故藤本和典氏の思いである、「生きもの好きを増やす」ための普及活動に力を入れている。都立葛西臨海公園鳥類園の週末スタッフやNHKラジオ「夏休み子ども科学相談」回答者(野鳥担当)などを経て、現在はフリーのネイチャーガイドや環境コンサルタントとして活動中。
個人ブログ『東京いきもの雑記帳』
https://tokyowildlife2020.exblog.jp/
身近に暮らす野鳥の存在、皆さん気付いていますか?
「スズメとハトかカラスくらいしか、都市部にはいないんじゃない?」と思われてるかもしれませんが、実は東京の街中でも10種くらいの野鳥が普通に生活をしています。そして、池や川、海が近くにあったり、冬になったりすると、さらにその種類は増えます。
「連載 バードウォッチング入門」は、バードウォッチングの楽しさと野鳥の魅力を、全3回にわたり紹介します。この連載を通して、実は身近に多くの野鳥が暮らしていること、そして、彼らの可愛さ、美しさ、逞しさなど、たくさんの魅力に気付いてもらえると嬉しいです。そして出来れば、鳥以外の生き物や、それを取り巻く(=彼らが生活をしている)自然環境にも関心を持ってもらえることを願います。
第1回は、身近に暮らす野鳥の紹介と、バードウォッチングの魔法アイテム双眼鏡や図鑑の選び方、また、バードウォッチング初心者にオススメ、水辺に暮らす鳥の観察方法を紹介します。水辺には、体が大きく、動きもゆっくりしていて観察しやすい種類がたくさんいます。さぁ、あなたも、鳥がもっと好きになる!
双眼鏡
カメラ
図鑑
メモ帳
筆記用具
雨具や防寒着、日よけの帽子など(天気により)
街中はスニーカーがオススメ(もしくはトレッキングシューズ)
まずは写真を見て下さい。これは全て東京の23区内で撮影したものです!
東京にはスズメやツバメ、ハト、カラスくらいしかいないと思っていたかもしれませんが、カワセミのようなキレイな鳥、メジロのようなカワイイ鳥、ツミ(タカの仲間)のようなカッコイイ鳥が見られます。水辺に行けば、特徴的な姿・形をしたカモやサギたちも暮らしています。
ちょっとしたコツさえ覚えれば、こんな鳥たちにだれでも出会うことができるのです。バードウォッチングってこんな世界なんですよ。
バードウォッチング初心者の方には、水辺の鳥から観察をはじめるのがおすすめです。その理由は、水辺は開けた環境なので、一度に広い範囲を観察できます。すると、鳥が見つけやすいのです。(林の中では、木の葉が茂ると、鳥が隠れてしまうことも多くなります)また、水鳥は体が大きく、動きもゆっくりしているものが多いので、一度見つければ、ゆっくり、じっくり観察できます。(小鳥は声しか聞こえないとか、すぐに飛んでいなくなることも多いです)
まずは、池に浮かんでいる鳥がいないか探してみましょう。これは一番目立つので、すぐに気が付くと思います。ただ、カイツブリでは全長26cm。カモの半分しかありません。水中に潜って小魚などを捕るので、そんな様子を観察してみましょう。
つぎは、池の岸辺や杭などの構造物の周りを探してみてください。岸辺で何かを食べていたり、杭の上で休んでいる鳥はいないでしょうか?岸辺がヨシなどの植物に覆われていたり、木々が近くに迫っていたら、そこにとまって休んだり、隠れている鳥がいるかもしれません。
さて、鳥を見付けたらタイプ分けをしてみましょう!
・カモの仲間でしょうか?嘴(くちばし)の先が黄色だったらカルガモです。カモの半分くらいの大きさならカイツブリかもしれません。全身黒かったら、バンかオオバンの可能性もあります。
・首が長いサギの仲間でしょうか?白いシラサギの仲間か、色がついていればアオサギかゴイサギかもしれません。
・黒くてカラス位の大きさであればカワウです。サギのように長い首ですが、足はずっと短めです。
ここでは全ての鳥の識別は説明できませんが、その特徴を記録やスケッチしながら、図鑑等と「にらめっこ」して、あれかこれかと悩むのは楽しい時間です。ただ、いつまでも悩み続けるのはよくないので、観察会に参加したり、観察施設のスタッフに聞いてみるのもよいでしょう。
都心近郊で野鳥観察ができるオススメの水辺:
上野公園(不忍池)、水元公園、浮間公園、石神井公園、善福寺公園、井の頭公園、葛西臨海公園などの大きな公園の池。
水元公園や石神井公園は「水辺の宝石」などと呼ばれるカワセミが観察しやすい公園としても有名です!どの公園でも冬になるとカモ類など多くの冬鳥が渡ってきますが、夏でもカルガモをはじめ、カイツブリやサギの仲間など一年中暮らしている鳥がいます。
散歩の途中にちょっと鳥も見ようかな?くらいであれば、双眼鏡はなくても気になりません。けれど、細部の模様や色が気になってしまった時、小さな鳥に出会ってしまった時、そして何という鳥か調べてみたくなったとき、双眼鏡が大活躍します!
双眼鏡は、バードウォッチング以外にも、観光地で景色などを見る時、スポーツやコンサート観戦の時、美術館などでの鑑賞にも使えます。1台あると世界が変わる「魔法のアイテム」ですから、ぜひ購入をおすすめします。(メーカーの回し者ではありませんが…)
<双眼鏡の選び方>
双眼鏡といっても、数千円程度のものから20万円以上の「超」高級機まで様々なものがそろっています。初心者の方におすすめなのは、5000円から1万円程度、重さ300g程度のものです。男性の方で体力に自信があれば、少し大きめサイズの方が明るく見えやすくなります。(お値段は少し上がります)また、お財布に余裕のある方は、同じ小型でも7~8万円くらいの高級機も選べますが、このあたりはお任せします。
選ぶ際の注意点は2つ。まず、野外で使うものなので、防水のものを選ぶとよいでしょう。最近はこのタイプが多くなっています。そしてもう一つは、光学メーカーは聞いたことのある会社のものを選びましょう。あとで故障などした際に、きちんとしたアフターサービスが受けられるからです。
・画像向かって左:小型の双眼鏡。初めての方にはこのくらいのサイズのものがオススメです。小さく軽量なので、いつもカバンに入れていても苦になりません。
・画像向かって右:高級双眼鏡。一生バードウォッチングを続ける気持ちが固まったら、購入してもよいかもしれません。夕方など条件の悪い時に性能を比べると、そのよさが際だちます!とにかくクリアに見えます!
野外へ持っていける小型の野鳥図鑑はいろいろ出ています。好みがあるので、「ズバリ」というのはありませんが、私が初心者の方にオススメするポイントは2つ。写真を使ってることと、掲載種が少ないことです。
写真の方が、野外で見る雰囲気と近いので、実物と比べやすくなります。イラストだと、同じ鳥を見ているはずなのに、イラストのテイストによっては違和感を抱く場合があるのです。慣れの問題でもありますが、最初は写真の方が分かりやすいと思います。
掲載種は、本格的な図鑑だと500種近くも載っています。日本でこれまでに記録された種のほとんどが載っているのでこんなことになっていますが、初心者が出会うのは、ほとんどが普通種です。100種ほど覚えれば、まずどれかに当てはまります。子供用で構いませんので、入門書を選ぶのがよいでしょう。あとは、解説文のボリュームや、写真のきれいさなどに違いがありますので、図書館で借りるなどして、使ってみながら自分に合う図鑑を探してみて下さい。
●オススメ図鑑
「日本の野鳥」(叶内拓哉 著/文一総合出版)
「はじめよう!バードウォッチング」(秋山幸也・神戸宇孝 著/文一総合出版)
バードウォッチングを始めてしばらくたつと、「この映像を残したい!」と思うようになるはずです。双眼鏡で見ている像は、思いのほかキレイなので、この気持ちはよく分かります。しかし、本格的な撮影には、高価なレンズとカメラのボディをしっかりした三脚に設置することになります。これにはお金もかかるし、機材も非常に重いので、初心者の方にはいきなりおすすめできません。
ここでは、スマホやコンパクトカメラなどで撮影する際のコツと、最近注目されている超望遠デジカメについてご紹介します。
●近づき方
最近の鳥たちは、人間を怖がることが少なくなりました。これまで人間を怖がる鳥の代表だったスズメが、人の手からパンくずなどを食べると話題になったことも。はじめはこんな鳥、つまり自分から近づいてくる鳥を撮影してみましょう。これは何も餌で呼ぼうというのではありません。鳥たちの行動を観察し、「こっちに来そうだな」と先読みして待つのです。読みがあたって向こうから近づいてくれると、ドキドキしちゃいますよ。
●綺麗に撮るには順光で撮ろう
シャッターを押して画像を見たら、なんだか黒くて小さな鳥しかいない…となるかもしれません。これは逆光が原因かもしれません。鳥の写真を撮る場合、作品としてワザと意識したのでなければ、まずは順光で撮るのが良いでしょう(太陽を背にして、鳥に光があたった側から撮影すること)。羽の色などがきれいに映っていると、あとで種類を見分ける時にも重要な手掛かりになります。
●超望遠デジカメに挑戦
スマホやコンパクトカメラだと物足りないけど、一眼レフのゴツいカメラはまだちょっと…と言う方にオススメなのが、「超望遠デジカメ」と呼ばれているものです。私も1台持っていますが、荷物が多く、大きなカメラを持ちたくない時にとても便利です。このカメラの特徴は、一眼レフカメラと比べて軽量・小型であること。それと、焦点距離が1000mm(※)近くあり、鳥が大きく撮れることです。2万から4万円程しますが、とてもコストパフォーマンスのよいカメラで、野鳥撮影の最初のカメラには最適です。
使い方は、普通のデジタルカメラと同じですが、遠くのものが大きく映るので、その分「手振れ」も大きくなります。しっかり手で固定したり、柱や手すりなど、何かに押し付けて撮るとよいでしょう。
(※)焦点距離について
カメラのレンズには双眼鏡のような倍率が表示されません。よく「×40」などと書いているのは、広角側から望遠側にズームする際の倍率で、40倍で見えるわけではないのです。その代わりに表示されるのが焦点距離です。○mm~○mmなどと書いてあるものです。おおよそですが、50mmが1倍程度と言われるので、双眼鏡の8倍と同じに見えるには焦点距離400mmのレンズが必要となります。
野鳥の撮影に成功したら、ぜひ「やった!レポ」に投稿して、みんなとシェアしませんか?質問や感想はコメントに記入してください。
まずは、バードウォッチングの世界のほんの入口をご紹介しました。やり始めると、「あれ?身の回りに、こんなに色んな鳥がいたんだ!」と気づくはずです。そして、自分の双眼鏡で最初に見た鳥が記憶に残ってしまうかも(私はヒヨドリでした。今から35年前(笑))。
バードウォッチングを通して、新たな気付きが生まれたり、友達や周りの人たちに教えたくなってくれたらとても嬉しいです。そして、もちろん、これをきっかけに新たに気づいた隣人(隣鳥?)たちのことを好きになってくれたらさらに嬉しく思います。
日本で唯一のバードウォッチングマガジン『BIRDER』;
野鳥のグラビアや探鳥地の情報、生態、識別、保全や観察アイテムといったバードウォッチングに必要な情報を満載した雑誌です。(毎月16日発売、B5判・80ページ、定価 本体1,000円+税/文一総合出版)