農学修士。苔に魅了される中で苔に可能性を見出し、大手メーカーを脱サラ。2016年より「苔むすび」代表として主に苔テラリウムの製作、講習会を行っている。今秋からは苔技術を伝える場として「苔編みの会」を開講予定。
雨上がり、鮮やかな緑色に潤う苔。その美しさにハッとするのは、きっと私だけではないと思います。そんな苔をお部屋にちょこんと置けたらと思い、苔玉や苔盆栽を試してみたけど、すぐに枯れちゃって…という声をとても多く聞きます。実際のところ、こういったものをお部屋で長く楽しむのはほとんど無理と思った方がよいと思います。苔は、他の植物とは体の仕組みが大きく異なります。他の植物よりも「置かれている環境」に影響を受けやすい性質があるので、環境の合わないお部屋で、むき出しの状態で育てるのはとても難しいのです。ですので、苔をお部屋にお迎えするには、他の植物とはちょっと違う方法、「環境を整える」という考え方でシステムを作る必要があります。
今回は「テラリウム」という形で、苔を育てる方法をご紹介します。透明容器の内側に、苔の好む「多湿な環境」を作ることで、比較的簡単に苔を楽しむことができます。ただし、容器に苔を入れれば出来上がり!というわけではなく、いくつかポイントがあります。Stepを参考に、自分だけの苔のテラリウムを作り、お部屋で苔を楽しんでみましょう。
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はじめに、苔のテラリウムを作るため、[準備する物]を参考に必要なものを揃えましょう。
写真1枚目:
左から、スプーン、ピンセット、ハサミを準備します。ピンセットは、先がまっすぐで細く尖っているものが良いです。自宅にあるものや、100円均一などで簡単に手に入るもので構いません。
写真2枚目:
左は、苔テラリウムに適していて、手に入りやすい土の「焼成赤玉土」、「富士砂」、「ピートモス」です。これらは、ネットなどで簡単に購入することができます。「セラミスグラニュー」など、ハイドロカルチャー用の土も基本的に使用しても大丈夫です。
土は、基本的に市販のものを使うことをおすすめします。湿度たっぷりで風通しの悪いテラリウムは、カビがわきやすい環境です。カビのリスクを少しでも減らすため、土選びは大きなポイントになります。屋外の土や腐葉土などは、カビがわきやすくなりますので、使わないようにしましょう。
右は、蓋付きの透明容器です。蓋も透明なものの方が、中が明るく見えるのでおすすめです。サンプルでは、ガラス製の容器を使用しています。
いよいよ、外へ出かけて、テラリウムに使う苔を手に入れます。
「君が代」の中には、長い時間を表す表現として「苔のむすまで」という表現があります。そのくらい苔が育つのには時間がかかる、ということを頭に留めておきましょう。テラリウムに使う苔の量は、そもそも多くありません。苔を採取するときは、大きなカタマリでとらず、ちょっとずつ、その土地から「おすそ分け」してもらう気持ちでいただくことを忘れないでください。
街中の苔は小さい苔が多く、カビやすかったり、お部屋では明るさが足りなかったりと、うまくいきにくいものも多いです。庭の土等によく生えている「コツボゴケ」や「キャラボクゴケ」といった種類は、テラリウムに比較的適しています。Step1でもお伝えした通り、屋外の土はカビやすいです。苔を採取する際は、土がなるべく付いていないものや、土を除きやすいものを選ぶようにしましょう。
実際は、市販されている苔を使うのが最も手軽な方法です。ネット販売で信頼のおける生産者さんから購入するのが確実です。園芸店やホームセンターでも苔は売られていますが、テラリウムに向いた苔はあまり流通していないですし、枯れかけの状態で売られているものも多いので注意が必要です。
苔テラリウム向きの手に入りやすい苔は、「コツボゴケ」、「タマゴケ」、「ヒノキゴケ」などが挙げられます。なかでも、ヒノキゴケは特に美しく、テラリウムでも簡単に育てられるのでおすすめです。4枚目の写真は、実際にいろいろな種類の苔を植え付けてみたサンプルです。左から「オオミズゴケ」、「カマサワゴケ」、「ナミガタタチゴケ」、「ツルチョウチンゴケ」、「ヒノキゴケ」、「クモノスゴケ」、「タマゴケ」です。好みに合わせて選んでみるのもおすすめです。
公園や森など、管理されているエリアでは、植物の採取にルールが設けられていることがあります。必ず事前に確認するようにしましょう。
ここでは、苔テラリウムの土台を作ります。透明の容器にスプーンを使って、入手した土を敷きます。苔は根が張る植物ではないので、土の量は特段多い必要はありません。最低、植え付けるのに必要な厚さ(1cm程度)があれば大丈夫です。
苔をピンセットでつまみ「挿し木」や「田植え」と同じように、土に差し込んで植えつけます。苔には根がないということもあり、どこでも自由に裂いたり、切ったりして問題ありません。
土選びと同じ理由で、カビなどの発生を防ぐため、苔についた土やゴミはきれいに水で洗い流すか、ついた部分をまるごと切り取るようにしましょう。少し面倒ですが、丁寧に処理してあげることが大切です。これにより、虫のわく心配も少なくなります。
苔を植えつけるときは2枚目の写真のように、ピンセットの先端と苔の先端を合わせて、ピンセットを苔の茎と並行なるようにつまむのがポイントです。この状態で、ピンセットの先を土に差し込み、苔を植え付けます。最初はうまくいかないかもしれませんが、少しずつ慣れていきます。
小型でまとまって生える苔は、塊のまま土に密着させる方法もありますが、可能ならば、少しずつ挿して植えた方がカビにくく、うまくいくことが多いです。
シンプルな苔テラリウムも良いですが、5枚目の写真のように、石やフィギュアを組み合わせると、さらにいろいろな表現ができるようになります。
苔テラリウムを正しく管理するための3つのポイントを紹介します。
①直射日光は絶対当てない
テラリウムの管理は、普通の植物の管理とかなり異なります。一番気をつけなければならないのは、直射日光を絶対に当てないこと。密閉した容器は熱がこもりやすく、例えるなら、炎天下に置かれた車の中のようになります。容器の中が高温になり、あっというまに苔は死んでしまいます。
②なるべく明るく涼しい場所に置く
直射日光に気をつけた上で、なるべく明るく涼しいところで管理するよう心がけてください。苔は暗い場所に生えているイメージがあるかもしれませんが、あくまで光の必要な植物。室内はただでさえ暗いので、明るい場所に越したことはありません。さらにLEDライトなどで光を補ってあげると、育てられる苔の種類もぐんと増えますし、より健康的な苔になります。ただし、照明も熱を出すので、ある程度テラリウムから離しておきましょう。
温度の点では、特に夏場は注意が必要です。暑くなる場所に置かざるをえないときは、朝のうちにタライなどに水を張り、テラリウムをドボンと水につけておくとよいでしょう。温度が上がりにくくなります。逆に冬場は、凍らない限り問題ありません。
③水やりは霧吹きで
苔には積極的に水を吸収する根がありません。体全体から水を吸収するので、霧吹きで水をあげましょう。容器の密閉具合や外の環境、苔の種類にもよりますが、2~4週間に一度程度の水やりが一般的です。苔が縮れるようなら水不足、土が水浸しになるようなら水のあげすぎ、と苔の状態を見ながら少しずつ調節してあげてください。
苔は植物ですので、テラリウムの中で成長しますし、枯れることもあります。時々メンテナンスをしてあげて、長く楽しみましょう。メンテナンスのポイントは2つです。
①苔がカビたり、枯れてきたら早めに取り出す
テラリウムはどの苔でもうまく育つわけではありません。苔の種類、状態、管理によっては簡単にカビたり枯れたりします。こういった苔はきっぱりと諦めた方が賢明です。早めに取り出して、周囲にカビを広げないようにしましょう。
②伸びたらカットする
苔は増えたり伸びたりと、だんだん成長します。なかには、ひょろひょろ伸びるなど、姿が変わるものも多くあります。伸びすぎて見苦しいようであれば、ハサミで切ってあげましょう。切ったものを土に挿してあげると、そこでまた成長してくれますし、切りっぱなしよりも美しいです。
苔の種類によっては、切ったあとあまり美しくないものもあります。そんな時は、苔の下部を取り除き、ハサミで切った上部を植え付けると、新芽を待たずにすぐにきれいに楽しめます。
繰り返しになりますが、テラリウムの中では、苔の形がどんどん変化していきます。いろいろな苔を試していると、どういう苔がテラリウムに向いているか、どう変化していくか、傾向がわかってきます。なかには、意外な反応をしてくれる苔もあり、発見が絶えません。容器の形、水の量、明るさなどによっても大きく変わる場合があります。最初のイメージと全然ちがう、とがっかりせずに、苔の変化を楽しみ、変化を前提に、自分なりの楽しみ方を見つけましょう。
オリジナルの苔テラリウムが完成したら、写真を撮って『やった!レポ』に投稿してみましょう。気がついたことや苦労したこと、自分なりに工夫したことなどがあれば、コメントに追加してみんなでシェアしましょう。
ふだん道端に何気なく生えている苔ですが、近づいてよく見てみると、様々な色、姿形のものがあることに気づくと思います。そんな苔たちを、テラリウムという方法で、環境を整え、観察し、心を込めて管理してあげることで、今まで以上に知るきっかけにつながり、深遠さに気づくようになります。ぜひ皆さんも、自分だけの苔のテラリウムを作り、苔の素晴らしさを楽しんでください。
苔・苔テラリウムについてもっと知りたい人のために!
おすすめワークショップ
・苔むすび主催 苔テラリウムのワークショップ
http://www.kokemusubi.com/workshop
・日本湿工塗協会主催 苔むす教室 (苔編みの会)
http://www.kokemusubi.com/class
おすすめ参考文献
・『コケに誘われコケ入門 (生きもの好きの自然ガイド このは No.7)』文一総合出版 このは編集部
http://goo.gl/3YKz3v
・『知りたい 会いたい 特徴がよくわかる コケ図鑑』藤井久子著 秋山弘之 監修
http://goo.gl/xvPRAs
・『コケはともだち』藤井 久子著 秋山 弘之 監修 永井 ひでゆき イラスト
http://goo.gl/f25MVc