大学では農学部で食品の研究を行い、卒業後は大手コーヒー焙煎会社に就職。東日本大震災を機に、食を探求しその楽しさを発信するために転職し、大規模貸し農園事業を展開。現在はあらゆる自然遊びをサイエンスの視点から語るライターとして活動。狩猟も得意で銃砲店のスタッフとしても活動している。
千葉県君津市に、未来農場CropFarmを設立。twitterアカウントは@Yuu_Miyahara
WILD MIND GO!GO!アンバサダー
皆さんは魚醤を知っていますか?魚醤は、魚を発酵させて作る調味料で、世界中で作られている「うま味調味料」です。最古の文献がある古代ローマでは、魚醤は高価な香水と同等の価値を持っていたと言われています。イタリア料理に欠かせないアンチョビ(塩蔵イワシのオイル漬け)もここから生まれました。その他にも、アジアのナンプラーや、皆さんがよく使うケチャップやウスターソースも魚醤がルーツです。日本の魚醤では、「しょっつる」や「いしる」が知られていますね。
魚醤と言っても、多くの皆さんはピンとこないかもしれませんが、わかりやすく言うと、「魚肉を日本の味噌や醤油のように発酵させたもの」で、発酵の基本がわかっていれば簡単に作ることができます。
味噌作りの次のステップとして、魚醤作りに挑戦し、新しい発酵の扉を開いてみませんか?
味噌作りのHow toはこちら
人と微生物の美味しい共演!「手づくり味噌」を育てよう!
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[食材]
丸ごとの魚やイカを1.5kgほど(下ごしらえ後700g)
食塩
200g
米麹
100g
[道具]
1L以上の円筒型タッパ(百円ショップなどで購入可能)
ラップフィルム
ウォッカ(消毒用)
200ml程度
霧吹きボトル(ウォッカを入れて準備)
キッチンペーパー
温度計
ボウル
包丁
鍋(容量1.5L程度)
漏斗(コーヒードリッパー4人用~でも代用可)
晒し布(コーヒーフィルター4人用~でも代用可)
今回、魚醤を仕込む材料は3つだけ。魚肉と、米麹、そして塩です。そう、これは味噌作りの材料のうち、大豆を魚に置き換えただけです。
使用する魚はなんでもOKですが、大きな切り身などではなく、アジやイワシなどの小魚を丸ごと使うのが良いでしょう。夏の時期であれば、堤防釣りなどで獲れた魚を使うのもオススメです。魚以外にも、イカやエビなど、食卓に上がる魚介類であれば、なんでも材料として使えます。
ここでは、サビキ釣りで釣れた小魚(アジ、イワシ、イシモチ、ヒイラギ など)で仕込んでみました。
はじめに、魚を下ごしらえします。魚は傷まないうちにヌメリやウロコを落とし、頭と内臓を取り綺麗に洗います。身はそのままでも良いですが、刻んだ方が瓶にも詰めやすく発酵も進むので、3cmほどの大きさに刻んでおきます。骨やヒレは取らずにそのまま刻んで構いません。
次に、味噌作りの要領で、米麹を取り出し、手をすり合わせるようにしてバラバラにほぐし、規定量の塩と混ぜ合わせて「塩切り麹」にします。
それぞれの準備ができたら、魚を入れたボウルに塩切り麹を入れてよく揉み込み、馴染ませます。
霧吹きボトルにウォッカを入れ、魚醤を作るタッパに吹きかけて消毒します。その容器に、先ほどの塩きり麹を馴染ませた魚を、なるべく空気の層ができないようしっかり押しながら詰めていきます。詰め終わったら容器に蓋をして、仕込み日を記入しておきましょう。
塩分濃度は仕込み重量の20%を目安にしてください。濃度が低いと発酵は進みやすいが傷みやすく、高いと発酵が遅くなります。
魚醤は魚の頭や内臓をそのまま使っても作れます。その場合は麹を使わなくても内臓の消化酵素で分解することができますが、魚の臭いが強くなります。まずは内臓などを使わない魚醤で、基本のレシピを覚えましょう。
魚を仕込んだ容器は、直射日光の当たらない常温の場所に保管します。ここも味噌作りと同じです。
2、3日すると、魚の水分が上がり、瓶の中が水っぽくなっていきます。最初の1ヶ月は、週に一度軽く容器を揺すり、蓋を開けてガス抜きをしてあげましょう。
2ヶ月もすると瓶の中は、仕込んだ時よりもずっと液体状になっています。発酵はだんだんと落ち着いてきますが、月に一度は同じように、軽く容器を揺すり、蓋を開けてガス抜きをしてあげましょう。そうして10~12ヶ月ほど熟成をさせます。
熟成が進んだ魚醤は身の分解が進み、濃い茶色に色が変わっていきます。匂いも魚の匂いがしつつも、すっかり醤油の香りになります。魚醤は、この「もろみ」を漉して液体の部分を使います。
このまま漉してしまうと余分な臭みが残るため、はじめに加熱処理をします。中身を鍋に移すか、容器ごと湯煎する形で、60~70度で30分加熱しましょう。液体に溶け出していたタンパク質などが凝固し、ろ過しやすくなります。
加熱後、粗熱が取れたら漏斗にさらし布を充てて、もしくはコーヒードリッパーにフィルターをセットして、ろ過していきます。1Lほどのもろみであれば一晩ほどでろ過できます。この液体が魚醤の一番搾りです。
湯煎温度は70度を超えてしまうと、せっかくの香りがどんどん抜けていってしまいます。加熱温度を守りましょう。
ろ過は無理に絞ると不純物や雑味が増えるので、自然落下か軽く重石を乗せる程度にしましょう。
一番搾りを抽出したもろみには、まだ魚醤の成分がたくさん含まれています。もったいないのでこれも抽出してしまいます。
STEP4 で絞りカスになったもろみを鍋に移し、もろみがひたひたになる程度(もろみの2/3程度)の水を注いだら、再び火にかけ60~70度で30分加熱します。
火からおろし、粗熱が取れたら、前項と同じようにろ過すれば二番絞りの完成です。
一番絞りと二番絞りは別々に使ってもOKですが、二番絞りは塩分濃度が低く、傷みやすいため、我が家では塩分濃度が高い一番絞りと混ぜてしまっています。味をみてお好みで調整してみてください。
完成した魚醤は、一度加熱処理をしていますので、冷蔵庫で保管をしましょう。魚醤は簡単に言えば「旨味醤油」です。魚介のエキスがたっぷり入っていますので、鍋料理のベースや、旨味が欲しい料理の隠し味として使えます。特に魚の内臓を使わず米麹を使った今回のレシピなら、臭みも少なく普通の醤油のように使っても違和感はないでしょう。
また、冒頭で述べた通り、魚醤はアンチョビの兄弟です。洋風料理のアンチョビの代わりとしても大活躍します。例えばバーニャカウダー。アンチョビの代わりに魚醤で味付けをすることも。魚介のリゾットも、魚醤をベースに味付けすると、とても美味しく仕上がります。
さあ、皆さんも手作り魚醤で、さらに美味しい料理を楽しみましょう!
魚醤の仕込みを終えたり、美味しい魚醤が完成したら、写真を撮って『やった!レポ』に投稿し、みんなと体験をシェアしましょう!体験の中で気がついたことや、魚醤を使ったオススメレシピなどもあれば、ぜひ教えてください。
今回は、味噌作りからさらに一歩踏み込んで、動物性の食材を使った発酵食品のHow toを紹介しました。日本列島は海に囲まれ、日本人は昔から魚や海産物の近くで暮らしてきました。今でも夏休みになると、浜辺の堤防でファミリーフィッシングを楽しむ姿をよく目にします。釣れたことが楽しくて、ついつい家の冷蔵庫に入らないほど釣り過ぎてしまったりすることもありますね。そんな時に、こうした食材の活用法を覚えておくと、命を粗末にせずに済むかもしれません。身の回りのものが手作りに溢れていく、それはとても素敵で贅沢な生活なのではないしょうか。