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氷に咲く水の花「チンダル像」を探しに行こう

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神田健三

中谷宇吉郎雪の科学館 友の会会長
氷上に広がる自然の不思議を観察しよう

これは何の写真だと思いますか?
答は氷ですが、花のようでもあり、雪の結晶にも似た形に見えます。そして、その中心付近に泡のようなものも見えます。これが今回のテーマ「チンダル像」です。花のようにも見えるので「アイスフラワー」の別名もあります。イギリスの科学者チンダル(1820~1893)が湖の氷で発見してスケッチを残したことから、この名がつきました。雪の研究で知られる中谷宇吉郎(1900~1962)も、詳しく研究しています。

よく晴れた冬の日、庭先のバケツや、公園の池にはった氷の上に、このような小さな花模様を見つけたことはないでしょうか?「チンダル像」は、氷に太陽などの強い光が当たるとできる自然現象です。条件がうまく整えば、あなたの身近なところでも見つかるかも知れません。このHow toでは、美しく不思議な「チンダル像」の仕組みと、観察の方法を紹介します。

※写真は、2019年12月に、後で述べる方法で氷を作り、太陽の光に1時間ほど当ててできた「チンダル像」をスマートフォンで撮影したものです(WMGG編集部撮影)。

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READY
準備するもの
  • 【あると便利なもの】

  • 木づち・金づち(氷を割る)

  • 軍手・ビニール手袋

  • 柄のない色のついた厚紙やプラスチックの板

  • 10㎝ほどの定規

  • スマートフォン(またはデジタルカメラ)

STEP 1

氷に咲く花「チンダル像」を知ろう

  • 雪の結晶「樹枝付き角板」

透明な氷に強い光が当たると、氷は表面だけでなく内部からもとけます。光が当たり、氷の温度が0℃よりほんの少し高くなると、ぽつぽつと幾つかの点からとけ始めます。その形は、はじめは薄い円盤状ですが、次第に円の曲線にギザギザができ、そのうち六方向に枝が伸びて、雪の結晶とよく似た形になります。数ミリのものが多く、10ミリ程になることもあります。

チンダル像は、直接触れて熱が伝わる「伝導」でなく、光源から離れていても伝わる「放射」によって、氷が内部まで暖められてできるのです。

チンダル像の中心付近には、泡が1つできます。これは、氷がとけて水になるときに、体積が約9%少なくなるため、水が足リない分が泡になるものです。チンダル像は、氷の内部にできるので、この泡には、空気は含まれません。そのため、「真空の泡」と呼ばれることもあります(泡は水と接しているので水蒸気は含みます)。

チンダル像が、成長する過程を撮影した動画はこちら。

STEP 2

どうして雪の結晶に似ているの

  • 図1

チンダル像は、雪の結晶とよく似ており、共に六角形です。雪の結晶は、水蒸気が集まってできる氷ですが、チンダル像は氷がとけてできる形。そのため、チンダル像は雪の結晶の逆と考え、「ネガティブクリスタル」と呼ばれることもあります。

では、雪の結晶やチンダル像が六角形になるのは何故でしょう?
氷は、水の分子(酸素Oと水素H2個でできたH2O)が、温度が下がって立体的に結合したものです(図1)。それは、ある角度から見ると、蜂の巣のように水分子が六角形につながった構造になっています。この六角形が作る方向に沿って成長すると六角形の雪の結晶になり、この方向に沿ってとけると六角形のチンダル像になる、と考えることができます。

STEP 3

野外で見つけたチンダル像(事例:加賀市中央公園)

  • 加賀市中央公園で撮影したチンダル像
  • 氷を割って取り出した(厚さ1㎝程)

2014年1月15日、この日は前夜からよく冷えましたが、朝から日差しが強く、日中気温が上りました。加賀市の公園を散歩していて、私は浅い池(深さは18㎝程)に氷がはっているのに気がつきました。近づいて見てみると、氷には小さな丸い形や六角形が一面にできていました。「チンダル像だ!」と直感し、カメラを取りに急いで家に戻り、再び池に戻ったのは11時半頃。

氷を少し割って取り出し、この氷のチンダル像の「影」を撮ろうと試みました。白い発泡ケースに写してみたら、反射が強くて見えにくかったので、緑色の野帳の模様のない裏表紙に氷をのせると、像の輪郭がはっきり写って見えました。これを撮ったのが1枚目の写真です。このチンダル像の形は、冒頭の写真と比べると、枝の伸びが少なく柏の葉のような形をしています。

この経験から、野外でチンダル像を観察するにはどうしたらよいか、考えてみました。

STEP 4

どんな気象条件のときにできるの

  • 天気図 2014.1.14(気象庁より)
  • 小松の最低気温と日照時間
  • 各地の最低気温と日照時間

1月15日の前夜は、日本付近は冬型が緩んで移動性の高気圧に覆われていました(1枚目の天気図 参照)。15日は晴れて雲がなく、放射冷却で夜から朝までよく冷えて「氷がはりやすい」条件でした。又、朝から太陽の光が強く照り、「チンダル像ができやすい」条件だったのです。

現地に近い小松のアメダスの観測値(2枚目の図)を見ると、1月15日は、最低気温が低くて日照時間が長く、チンダル像ができるのにはよい条件だったことがわかります。

小松のデータを参考に、3枚目の図では、各地の最低気温と日照時間の観測値を表にしてみました。「氷がはりやすい」条件を緑色、「チンダル像ができやすい」条件を黄色でカラーリングしています。これを見ると、関東地方など太平洋側では、冬型の日にもよく晴れ、朝の最低気温も氷点下になる日が多いので、北陸と比べて、チンダル像を見る機会は非常に多いことがわかります。

STEP 5

チンダル像をさがしに出かけよう

  • 加賀市中央公園の池にはった氷

STEP4の条件を参考に、チンダル像を探しに野外に出かけてみましょう。観察場所を選ぶポイントは、「氷がはること」「太陽の光が当たること」の2つです。あらかじめ、氷がはりやすそうな池を探しておくと良いでしょう。深い池は凍りにくいので、浅い池がおすすめです。また、噴水などの流れがある池は避けましょう。

天気予報を確認し、 STEP4で説明した気象条件に近づいたら、あらかじめ探しておいた池に観察に出かけましょう。池に氷がはり、太陽の光が当たっていたら、氷の表面をじっくり観察します。そして、六花の模様や泡が見られたら、適度な大きさ(直径10~20cm)に氷を割って取り出します。このとき、手を切らないよう注意しましょう。

氷を取り出したら、空中に透かして見ましょう。チンダル像が出来ていれば、「真空の泡」がキラキラ輝いてわかりやすいです。また、泡のまわりの水の範囲も観察しましょう。小さな氷なら、洗濯バサミで角をつまむと、手の温もりで氷がとけないので便利です。

チンダル像が小さいときは、さらに太陽の光が当たると大きくなるので、少し時間を置いて観察しましょう。但し、氷がうすいと、とけてしまっては観察できなくなるので、注意が必要です。

POINT

注意事項
※私有地や公園など、管理された土地で観察する場合は、あらかじめ管理者に確認しましょう。
※足元が滑りやすくなります。水の中に落ちてしまわないように十分に注意し、必ず大人も付き添うようにしましょう。
※太陽の光が強い時、氷で反射する光も強いので、目を痛める恐れがあります。長く見続けないよう注意するか、サングラスを使いましょう。

STEP 6

チンダル像を撮影しよう

  • チンダル像の横に定規を置いて撮影
  • 撮影の様子
  • 撮影の様子

チンダル像が観察できたら、写真を撮りましょう。チンダル像そのものを撮るのは難しいので「影」を撮ります。柄のない色のついた厚紙やプラスチックの板などの上に氷を置くと、太陽の光でチンダル像の影が写るので、その影を撮ります。その時、氷のそばに小さい定規を置いて一緒に写すと、大きさの記録になります。スマートフォンなどのカメラのズーム機能で拡大して写すのも良いでしょう。

チンダル像の写真が撮れたら、ぜひ「やった!レポ」にも投稿してください。撮影した日時・場所や、天気、観察してわかったことや感想など、メッセージも添えて、シェアしてください。

STEP 7

【チンダル像観察の番外編】 その1:氷を作る

これまでのSTEPでは、野外にできた天然の氷に、太陽光が当たってできたチンダル像を観察する方法を紹介しました。しかし、うまくいかない場合や室内で実験したい人のために、番外編として、人工的に氷を作り、必要なら電燈の光も使って観察を行う方法を紹介します。

チンダル像は、池や湖の表面にはった氷にできやすいので、池や湖の凍り方を真似して、氷を作ります。池や湖の水は、放射冷却で上に向かって熱が逃げ、上側から冷えて凍ります。その結果、池や湖の氷は、全体が1つの結晶(単結晶)になりやすいのです。

尚、工場で作る氷は、水を冷やす金属容器の側面から横方向に(底からは上へ)凍っていきます。このため、容器の側面から沢山の結晶が成長して多結晶の氷になります。チンダル像は、ひとつの結晶内では同じ方向に成長する性質があるため、単結晶の氷の方がチンダル像の観察には適しています。

チンダル像に適した氷の作り方は、状況に合わせて次の2つがあります。

- 気温が氷点下になるが、付近に適当な池がない場合:
夜、水を入れたバケツを外に置いて、朝までにできた氷を使う。観察には、バケツの水が1~2cmほど凍り、その下にはまだ水がある状態が理想的なので、10~20cmほどの水を入れておきましょう。

- 気温が氷点下にめったにならない場合:
冷凍庫で氷を作りましょう。冷蔵庫に入る大きさの発泡スチロールの箱に水を入れ、箱のフタは閉めずに、冷凍庫の中で一晩冷やします。そうすると、上からだけ冷えるので、池や湖の水が冷えるのに似た状況になり、単結晶に近い氷ができます。手順は、画像(1)~(4)の通りです。作った氷は、取り出してからビニール袋などに入れ、必要なときまで冷凍庫で保管しましょう。

STEP 8

【チンダル像観察の番外編】 その2:光を当てる

  • 太陽、又はレフランプなどの光を当てる
  • OHPでの観察方法

STEP7で作った氷に強い光を当て、チンダル像を観察します。強い光を当てるには、以下の2つの方法があります。観察方法は、STEP6と同様です。

- 太陽の強い光がある場合:
氷を太陽の直射日光の当たる場所に置き観察します。気温の低い冬場は、太陽の光の強さにもよりますが30分ほどするとチンダル像が現れ始めます。夏場は、気温が高いため、氷が早くとけるので注意が必要です。

- 太陽の強い光がない場合:
太陽光の代りに、レフランプ(150~200w)や赤外線のストーブを使い、室内で観察することができます。

POINT

冷凍庫で氷を作り、レフランプなどを使い屋内でチンダル像を観察する方法は、季節を問わないため、実験に適しています。又、OHPがあればスクリーンに投影して観察がしやすくなります。OHPは30年前頃までよく使われていましたが、プロジェクターが普及し、その多くが廃棄されたようです。しかし、チンダル像の観察には大変便利なので、まだ残っていたら捨てずに活用することをおすすめします。

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まとめ

氷に咲く花「チンダル像」は、まだまだ知られていない自然現象のひとつです。先日、初めてチンダル像を見た人が、その美しさに鳥肌が立つほど感動したと語ってくれました。普段何気なく過ごしている私たちの身の回りにも、沢山の不思議が隠れていることに気付かされます。その不思議に実際に触れることは、さらに深くその仕組みや造形に興味が湧くきっかけにもなります。自然は常に、私たちにメッセージを投げかけているのかもしれません。

皆さんも、今年の冬は、近くの公園や庭先のバケツの中を覗き込んで、この美しい自然の造形を観察してみてはいかがでしょうか。

※さら詳しく知りたい方に
《おすすめ体験》
「中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県加賀市)」
雪の科学館では、実際に氷にライトを当ててチンダル像を出現させ、観察することができます。詳しくは、ホームページをご覧ください。
https://yukinokagakukan.kagashi-ss.com/facility/program/

《おすすめイベント》
「雪のワークショップ in 十勝岳 / 旭岳」
2020年 2月8日(土)白銀荘(北海道上富良野町 吹山温泉)
2020年 2月9日(日)旭岳ビジターセンター(北海道東川町勇駒別 旭岳温泉)
詳しくはイベント情報をご覧ください。
https://bit.ly/2QIdh1X

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