1948 年 福島県喜多方市生まれ。信州大学理学部卒。大学1年時から北アルプス穂高岳涸沢の雪渓を調査。名古屋での理科教師生活を経て、平成6年(1994年)加賀市に赴任し、「中谷宇吉郎雪の科学館」の開設準備に携わり、学芸員、館長などとして 20 年間勤務した。現在、同館友の会会長。雪や氷の実験の普及活動により小柴昌俊科学教育賞奨励賞を受賞。2005年と2016 年には北欧のラトビアで雪氷実験のワークショップを実施した。『天から送られた手紙[写真集 雪の結晶]』(1999)を執筆、中谷宇吉郎著『着氷』(2012)を編集、『雪と氷の大研究』(2011)を監修、『雪と氷』(2017)の解説など。
これは何の写真だと思いますか?
答は氷ですが、花のようでもあり、雪の結晶にも似た形に見えます。そして、その中心付近に泡のようなものも見えます。これが今回のテーマ「チンダル像」です。花のようにも見えるので「アイスフラワー」の別名もあります。イギリスの科学者チンダル(1820~1893)が湖の氷で発見してスケッチを残したことから、この名がつきました。雪の研究で知られる中谷宇吉郎(1900~1962)も、詳しく研究しています。
よく晴れた冬の日、庭先のバケツや、公園の池にはった氷の上に、このような小さな花模様を見つけたことはないでしょうか?「チンダル像」は、氷に太陽などの強い光が当たるとできる自然現象です。条件がうまく整えば、あなたの身近なところでも見つかるかも知れません。このHow toでは、美しく不思議な「チンダル像」の仕組みと、観察の方法を紹介します。
※写真は、2019年12月に、後で述べる方法で氷を作り、太陽の光に1時間ほど当ててできた「チンダル像」をスマートフォンで撮影したものです(WMGG編集部撮影)。
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【あると便利なもの】
木づち・金づち(氷を割る)
軍手・ビニール手袋
柄のない色のついた厚紙やプラスチックの板
10㎝ほどの定規
スマートフォン(またはデジタルカメラ)
透明な氷に強い光が当たると、氷は表面だけでなく内部からもとけます。光が当たり、氷の温度が0℃よりほんの少し高くなると、ぽつぽつと幾つかの点からとけ始めます。その形は、はじめは薄い円盤状ですが、次第に円の曲線にギザギザができ、そのうち六方向に枝が伸びて、雪の結晶とよく似た形になります。数ミリのものが多く、10ミリ程になることもあります。
チンダル像は、直接触れて熱が伝わる「伝導」でなく、光源から離れていても伝わる「放射」によって、氷が内部まで暖められてできるのです。
チンダル像の中心付近には、泡が1つできます。これは、氷がとけて水になるときに、体積が約9%少なくなるため、水が足リない分が泡になるものです。チンダル像は、氷の内部にできるので、この泡には、空気は含まれません。そのため、「真空の泡」と呼ばれることもあります(泡は水と接しているので水蒸気は含みます)。
チンダル像が、成長する過程を撮影した動画はこちら。
チンダル像は、雪の結晶とよく似ており、共に六角形です。雪の結晶は、水蒸気が集まってできる氷ですが、チンダル像は氷がとけてできる形。そのため、チンダル像は雪の結晶の逆と考え、「ネガティブクリスタル」と呼ばれることもあります。
では、雪の結晶やチンダル像が六角形になるのは何故でしょう?
氷は、水の分子(酸素Oと水素H2個でできたH2O)が、温度が下がって立体的に結合したものです(図1)。それは、ある角度から見ると、蜂の巣のように水分子が六角形につながった構造になっています。この六角形が作る方向に沿って成長すると六角形の雪の結晶になり、この方向に沿ってとけると六角形のチンダル像になる、と考えることができます。
2014年1月15日、この日は前夜からよく冷えましたが、朝から日差しが強く、日中気温が上りました。加賀市の公園を散歩していて、私は浅い池(深さは18㎝程)に氷がはっているのに気がつきました。近づいて見てみると、氷には小さな丸い形や六角形が一面にできていました。「チンダル像だ!」と直感し、カメラを取りに急いで家に戻り、再び池に戻ったのは11時半頃。
氷を少し割って取り出し、この氷のチンダル像の「影」を撮ろうと試みました。白い発泡ケースに写してみたら、反射が強くて見えにくかったので、緑色の野帳の模様のない裏表紙に氷をのせると、像の輪郭がはっきり写って見えました。これを撮ったのが1枚目の写真です。このチンダル像の形は、冒頭の写真と比べると、枝の伸びが少なく柏の葉のような形をしています。
この経験から、野外でチンダル像を観察するにはどうしたらよいか、考えてみました。
氷に咲く花「チンダル像」は、まだまだ知られていない自然現象のひとつです。先日、初めてチンダル像を見た人が、その美しさに鳥肌が立つほど感動したと語ってくれました。普段何気なく過ごしている私たちの身の回りにも、沢山の不思議が隠れていることに気付かされます。その不思議に実際に触れることは、さらに深くその仕組みや造形に興味が湧くきっかけにもなります。自然は常に、私たちにメッセージを投げかけているのかもしれません。
皆さんも、今年の冬は、近くの公園や庭先のバケツの中を覗き込んで、この美しい自然の造形を観察してみてはいかがでしょうか。
※さら詳しく知りたい方に
《おすすめ体験》
「中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県加賀市)」
雪の科学館では、実際に氷にライトを当ててチンダル像を出現させ、観察することができます。詳しくは、ホームページをご覧ください。
https://yukinokagakukan.kagashi-ss.com/facility/program/
《おすすめイベント》
「雪のワークショップ in 十勝岳 / 旭岳」
2020年 2月8日(土)白銀荘(北海道上富良野町 吹山温泉)
2020年 2月9日(日)旭岳ビジターセンター(北海道東川町勇駒別 旭岳温泉)
詳しくはイベント情報をご覧ください。
https://bit.ly/2QIdh1X