昭和20年生まれ。大阪市出身。大阪市立大学大学院博士課程修了。38年間高校で地学を教える。元大阪教育大学付属高等学校副校長。定年後地学の普及のため「自然環境研究オフィス(NPO)」を開く。大阪市立大学、同志社大学で非常勤講師を行う。現在では、NHK、毎日、朝日、産経などの文化センターで地学関係の講座を開講。ボランティア活動として、インドネシアの子供のための防災パンフ(地震、津波、火山)を作成し、配布活動を行う。著書は「鉱物・化石探し」(東方出版)、「海辺や川原のきれいな石の図鑑1,2」「3D地形図で歩く日本の活断層」「防災教育マニュアル」「宮沢賢治の地学教室」(いずれも創元社)など。
当たり前のように眺めている、山々や渓谷といった美しい自然風景。こうした地球上にある凹凸は、地球が誕生してから何万年、何億年もかけて、大地のエネルギーによって作られたものです。大地の活動は、地震、火山の噴火などにあらわれ、その痕跡は、カルデラや断層地形などとして大地に刻まれてきました。日本の地形に見られる凹凸はというと、第四紀(260万年~現在)の地殻変動で作られたものがほとんどです。
地震の影響でよく知られるようになった「活断層」という専門用語は、ただただ地震を引き起こす怖いものとして記憶されているのではないでしょうか。この活断層こそが、第四紀に繰り返し活動があった断層で、日本の美しい風光明媚な景色を作ってきました。活断層は、まさに大地活動の化石! 活断層に目を向けて観察することは、大地、または地球のエネルギーを感じられる近道とも言えます。
このHow toでは、そんな活断層の仕組みや特徴、私たちの生活との関わりを解説し、実際に観察に出かける方法を紹介します。
※上記の地図は、産業技術総合研究所地質調査総合センター「地質図Navi」にて、国土地理院の「地理院地図」を開き、産総研の「活断層データ」を表示しています。
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必要に応じた観察に出かける装備
<あったら良いもの>
国土地理院発行の地形図
はじめに、このHow toで観察に出かける「活断層」について見てみましょう。
まず、地球の表面は十数枚のプレートからなり、それぞれのプレートが移動しながら成長しています。このプレート移動の影響により、大地に大きな力が加わり地震や地殻変動が起きます。日本はというと、4つの大きなプレート「ユーラシアプレート」「フィリピン海プレート」「北アメリカプレート」「太平洋プレート」の継ぎ目にあたり、世界でも有数の地震や地殻変動の多い国です。
「断層」とは、地面や岩に割れ目ができ、プレートの動きで地震や地殻変動が起きた際に、その割れ目を境にして両側の岩石や地層にずれが生じたところを指します。そして、今回のテーマにもなっている「活断層」とは、この断層が(地球規模で言うと)比較的新しい第四紀(260万年前~現在)に作られ、将来も活動する可能性がある断層のことを指します。
日本の地形に見られる凹凸は、第四紀の地殻変動によって作られたものがほとんど。つまり、今私たちが見ている各地の風景の多くは、活断層の断層活動による結果なのです。
一概に断層といっても、ずれが生じる向きや、力が加わる大きさによっていろいろな種類があります。
例えば、地面や岩の割れ目に対して引張の力が加わると、一方の大地がずり下がった「正断層」が生まれます。また反対に、地面や岩の割れ目に対して圧縮の力が加わると、地面がせり上がった「逆断層」が生まれます。そして、地面や岩の割れ目に対して、水平方向に力が加わると、横方向にずれた「横ずれ断層」が生まれます。
どの形の断層ができるかは、地殻変動で大地にどのような力が加わったかによって決まります。また、言い換えると、断層を観察すると、どんな力が加わったのかを推測することができます。
断層の大きさは、地表面の割れ目がどれくらい長いかと、断層面が地下にどれくらい広がっているかで表され、断層面の面積が大きければ大きいほど、その断層を作った地震の規模も大きかったということがわかります。※ただし、陸のプレート内では、断層面の地下への広がりはせいぜい深さ15kmくらいまでなので、割れ目が長いほど断層が大きいとも言えます。
日本で一番大きな断層は、中央構造線(規模の大きな断層を構造線という)です。2枚目の画像のように、西日本を南北に分断するかのように伸びる、全長 1,000 km 以上もある巨大な断層です。どんなに大きな力が加わり、このような巨大な断層を作り上げたのか、想像するだけでも興味深いです。
ここまで、断層について紹介しましたが、では実際に断層によってどのような地形ができ、私たちの生活にどのようなに影響しているのでしょうか?断層によって作られた地形を例に見てみます。
例えば、1枚目の画像のような地形に見覚えはないでしょうか?これは、横ずれ断層(右横ずれ断層)によってできた特徴的な地形です。こうした断層によって作られた直線の谷は、凹凸の少ない集落間を結ぶ最短距離の街道となって発達し、地形を利用し高速道路が作られたりと活用さています。2枚目の3D地図は、1枚目の画像を代表するような地形で、直線状に伸びる「山崎断層」です。断層谷を利用して高速道路が作られています。
また、3枚目の画像は、秋田県の田沢湖 南端部から横手盆地の東縁にかけて位置する「横手盆地東縁断層帯」です。西側にも断層崖があり、間には低地が広がる広大な盆地で、現在30万人もの人が生活圏として利用しています。
断層活動の恩恵には、私たちの大好きな温泉もあります。断層に沿って温度の高い地下水が、地下深くから上がってくるものがあります。温泉探査はまず断層の場所を探すことから始めるほどだとか。4枚目の画像は、愛媛県の「岡村断層(中央構造線の一部)」の上にある「湯の谷温泉」です。近くに火山もないことから、この温泉は、断層によって地下深くの温度の高い地下水が上がってきていると思われます。名水といわれる地下水も、断層の割れ目に沿って流れてくることで、湧き出ているところもあります。
無意識のうちに生活していると気づかないですが、このように、断層活動によって作り出された地形は、私たちの生活圏に密接に関わっており、私たちはその影響や恩恵を受けながら日々暮らしていることがわかります。
その他、代表的な地形も下記に挙げておきます。
◎断層に囲まれた盆地(富良野、北上、白石、花輪、横手、福島、猪苗代、会津、諏訪、丹奈など)
◎断層によって生じた湖(伊奈ヶ湖、諏訪湖、仁科三湖、琵琶湖、余呉湖など)
◎断層によってできた崖や谷(有珠火山オガリ山断層崖、東鳥海山断層崖、会津盆地西縁断層崖、高倉の断層線崖、伊勢原断層崖、高清水断層崖、富士見山断層崖、長野盆地西縁断層崖、真富士山東面、甲楽城断層崖、本宮山断層崖、上町台地、塩之内断層崖、冠山断層崖、菊川断層崖、岩国断層崖など)
実際に活断層を観察するため、目的地を決めて下調べをします。
下調べには、インターネットで提供されている地図がおすすめ。国土地理院の「地理院地図」を使うと、全国の高度分布に加えて、活断層の場所を確認できます。
1枚目の画像は、パソコンで地理院地図を表示し、画面左上メニューから「淡色地図」を選択、さらに地図の種類から「地殻の変動による地形」と「活断層図」を選択した状態です。断層などの地殻変動によりできた、日本の典型的な地形が見られる場所を桃色、活断層のあるエリアを赤い四角で表しています。地図から活断層が日本全国に広がっていることがわかります。
1枚目の地理院地図は下記からアクセスできます
https://maps.gsi.go.jp/#6/35.256624/136.466331/&base=pale&ls=pale%7Cafm%7Ctenkei_chikaku&blend=0&disp=111&lcd=afm&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m
地図を開き、あなたの住んでいる周辺に、活断層がないか調べてみましょう。国道や鉄道路線が断層に平行に走っている、または横断しているところは、窓から断層地形を見ることができたりするのでおすすめです。実際に、断層の位置を確認し目的地を決めましょう。
ここでは、日本の大断層である「丹那断層」を調べてみます。はじめに、パソコンで地理院地図を開いたら、2枚目の画像を参考に(1)調べたい場所の地名や住所、断層名を入力し、Enterキーを押します。(2)画面左横に候補が出るので、該当するものをクリックします。すると3枚目の画像のように、地図上に旗が立ち、目的地が拡大表示されます。
続いて、地図の表示を3Dに切り替えます。(3)画面の右上のメニューから「ツール」を選択し、(4)表示されたツールリストから「3D」を選択します。さらに(5)3Dを作成するサイズメニューが出るので「小」または「大」を選択します。すると、4枚目の画像の様に、地図が3Dに変換されます。(6)画面左下にある「高さ方向の倍率」のスライダーをスライドすると、凹凸の高さの倍率が変わり、変化がわかりやすくなります。また、画面をドラッグすると、地図の角度を変えて観察できます。あなたの選んだ目的地を、3D地図で観察してみましょう。
※活断層情報は、データとして記録されているもののみが表示されています。
※操作にはパソコンとインターネット接続環境が必要です。
※環境によっては、3D地図を作成する際に時間がかかる場合があります。
※スマートフォンの方は、1枚目の画像のQRコードからアクセスできます。
※上記、地理院地図は、画面左側のメニューから下記を選択した状態です。
・画面左上メニューから「淡色地図」を選択
・左横メニューの地図の種類メニューから、「土地の成り立ち・土地利用」→「活断層図」を選択
・左横メニューの地図の種類メニューから、「土地の成り立ち・土地利用」→「日本の典型地形」→「地殻の変動による地形」を選択
国土地理院の地理院地図の他にも、産業技術総合研究所地質調査総合センターの提供する「地質図Navi」でも、地図を使って断層を探すことができます。
産業技術総合研究所地質調査総合センター 地質図Navi
https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#7,38.247,137.000
目的地が決まったら、実際に断層の見られる場所や現地までのアクセス方法を調べて、観察に出かけてみましょう。
断層観察には、いくつかの楽しみ方があります。
ひとつは、断層を見渡せるような遠く離れた場所から観察すること。大きな断層であれば、離れた場所から眺めることで、その地形の特徴がより見つけやすくなります。これは3D地図で下調べする際にも、引いた視点から地形を観察することができるので、あらかじめ、どの角度から断層を観察すると良いかを下調べしておきまでしょう。
また、実際に観察に出かけた際にスマートフォンなどがあれば、現地で3D地図を開き、照らし合わせて確認すると、正確な断層の位置も把握できるのでおすすめです。
もうひとつの楽しみは、断層のすぐそばに近づき、観察したり、実際に上を歩いてみること。断層谷を使って作られた街道を実際に歩いてみたり、断層面が見える場所に訪れるのもおすすめです。STEP5で調べた「丹那断層」は、国指定の天然記念物として指定されており、伊豆半島ジオパークのひとつ「丹那断層公園」で、実際に地震によって生じた断層のずれが保存されているので、すぐそばで観察することができます。
断層を実際に確認することができたら、どうしてそのような断層ができたのか、どれくらいの力が加わったのか、そして私たちの生活にどのような影響や恩恵をもたらしたのかなど、想像したり、実際に調べてみることをおすすめします。
活断層の観察スポットをいくつか紹介します。
1)横手盆地 東縁にある「千屋断層」画像1枚目
地図の位置:秋田県仙北郡美郷町
断層の種類:逆断層
特徴:横手盆地東縁断層帯の一部、秋田新幹線から見ることができる
URL:https://maps.gsi.go.jp/#13/39.467502/140.551078/&base=std&ls=std%7Cafm%7Ctenkei_chikaku&blend=1&disp=110&lcd=afm&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m
2)北西南東方向に延びる「阿寺断層」:画像2枚目
地図の地域:岐阜県中津川市
断層の種類:横ずれ含む
特徴:活断層によって生じた急崖、JR中央本線から見ることができる
URL:https://maps.gsi.go.jp/#13/35.603820/137.530165/&base=std&ls=std%7Cafm%7Ctenkei_chikaku&blend=0&disp=111&lcd=afm&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m
3)吉野川に沿って東西に伸びる「中央構造線(池田断層 付近)」:画像 3、4枚目
地図の位置:徳島県三好市・東みよし市
断層の種類:逆・右横ずれ断層
特徴:吉野川に沿って東西に延びる断層、国道、高速道路、JR徳島線から見ることができる
URL:https://maps.gsi.go.jp/#14/34.023300/133.813027/&base=std&ls=std%7Cafm%7Ctenkei_chikaku&blend=0&disp=111&lcd=afm&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m
断層について詳しく知りたい方は、日本にある34の活断層を書籍でも紹介しているので、参考にしてみてください。
『3D地形図で歩く日本の活断層(創元社)』
https://www.amazon.co.jp/dp/4422450026
活断層を観察できたら、写真にとって『やった!レポ』に投稿し、みんなにシェアしましょう。見つけた場所や、種類や特徴、感じたことなどあればコメントにも記載してみてください。
日本には、名前がついているだけでも、約2,000の活断層が存在し、ふたつとして同じものはありません。これらは、地球規模の力によって、長い年月(何億、何万、何千年)をかけて次第に成長し、現在私たちの生活している大地を作りました。私たちもまた、その地形と共に、ときには困難に見舞われながらも、その地形を活用し、恩恵を受けながら生活してきました。
活断層を観察し、その特徴や成り立ちを知ることは、改めて地球のパワーを知り、その上で密接に生活してきたことを振り返る機会になるのかもしれません。
活断層をいくつか観察すると、ふと目に飛び込んできた旅先の風景や、電車から見えた景色に、断層の特徴を見つけられるようになり、楽しみが膨らみます。また、3Dの地形図を使うと、自宅にいながらでも、いろいろな断層を観察することができます。ぜひ皆さんも、いろいろな断層を観察してみてください。