狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
地球からおよそ1億4960万km離れた場所に位置する太陽。太陽を飛び出した光は、そこから8分20秒かけて地球に到達し、あらゆる生命を養う源となります。
ソーラーパネルはこの光を電気に変換することを可能にしましたが、特別な装置がなくても、太陽光をエネルギーとして利用することができます。なかでも簡単かつ効果的な道具が「ソーラークッカー」。太陽光を一点に集中させることで、お湯を沸かしたり、食物を加熱します。
ごくごく少量の素材で作れて燃料を使わず、二酸化炭素もススも出さないソーラークッカーは、もっとも環境負荷の小さい加熱器具。製作・使用するうちに、エネルギーと資源について学ぶことができます。
保温アルミシート
1枚
ダンボール(90×90cm以上)
1枚
両面テープ
1巻
洗濯バサミ
4個
ガラス瓶
1個
茶筒
1個
ブラックホイル
1本
トイレットペーパーの芯
1本
ソーラークッカーそのものの材料はダンボールと保温アルミシート、両面テープの3点のみ。今回は切れ目のない正方形のダンボールを使っていますが、切り開いたときに90×90cm以上のサイズになるなら廃物の再利用でもOKです(ダンボールは90cm四方以上必要。面積が大きいと出力も大きくなります)。保温アルミシートは百円均一のお店で防災用品のコーナーで入手可能です。これが手に入らない場合は、市販のアルミ箔で代用可能です。作業性の高さから、貼り合わせには両面テープを紹介しましたが、これも市販ののりで代用できます。
ガラス瓶、茶筒、ブラックホイルは、食品を収めて効果的に加熱するためのセットです。今回はこの3点を使っていますが、必要なのは「光を透過する素材で空気の出入りが少ない容器」と「太陽光を効率よく吸収する金属の缶」の2つです。この条件を満たすものならどんなものでも代用できます。ただし、どれも熱に強い素材を選びましょう。
90cm四方以上のダンボールを用意したら、一辺を7:4:7の比率で分割する位置をマーク。そこから線を縦方向と横方向に引きます。ダンボールの目の向きを確認したら、目に直交する向きで1枚目の写真のように切れ目を入れます。
切り開いたら、太陽光を受けるパネルに曲面をつくるために、目に沿って内側へと折ってクセをつけておきます。
折り目をつけたら、光を受けるパネル部分に両面テープを貼りましょう。光を受ける部分にだけアルミシートを貼るので、真ん中の帯状のパーツは中心部だけテープを貼れば問題ありません。
アルミシートを広げて集光パネルに貼り合わせます。1枚目の写真のように、パネルごとに貼ったほうがきれいに仕上がります。また、辺から少しはみ出すように貼り、余分は裏側へと折り込んで留めると見た目がきれいに仕上がります。
集光パネルは凸凹が少ないほうが光を一点に集中できるので、シワが少ないほど高効率なクッカーになります。シート貼りの作業は2人で行なうとよいでしょう。
晴天時の屋外でクッカーを太陽に向け、手をクッカーの中心部に入れると全面から手が照らされます。集光パネルの角度を調整しながら手のひらがもっとも熱を感じる角度を探し、角度を決めたら2枚のパネルを洗濯バサミで固定します。
ソーラークッカーは太陽の真正面を向いたときにもっとも出力が高まります。手と目の感覚でも、ある程度は正面に向けられますが、照準器をつけると確実に太陽を狙うことができます。
照準器となるのはトイレットペーパーの芯。左右に張り出している支えパーツに芯を立てて固定すると、芯の影によってクッカーがきちんと太陽を向いているかを確かめられます。影が長い場合は太陽に正対できていません。芯の影がもっとも小さくなる位置を探しましょう。
クッカーが完成したら食材を用意します。クッカーの性能を確かめるもっとも簡単な料理がゆで卵です。茶筒に卵を入れて、卵がひたひたに浸かる高さまで水を入れたら、全体をブラックホイルで包みます(黒く塗っても同じ効果を得られます)。そして、そのままガラスの瓶に収めます。このとき大切なのが、茶筒と瓶の間にできる空間。筒と瓶が接していると、筒の熱が外へと逃げやすくなります。
茶筒に水を張るのは外部からの熱を卵に伝えるためと、高温による空焚きを防ぐため。黒いホイルで包むのは、光を効率よく吸収するためです(光を反射しない黒は光を吸収して熱に変える力が強い)。そして、ガラス瓶に茶筒を収めるのは外気から遮断して熱を逃さないため。瓶は茶筒を覆う温室のような役割を果たします。
すべての準備が整ったらいざ調理!太陽にクッカーを向けてもっとも効率の良い角度で光を受けましょう(瓶の下に台を入れると効率が高まる場合も)。太陽は正午にもっとも高い位置にあり、クッカーの出力もこの時間がもっとも高まります。そのため、調理は正午を挟むのがおすすめ。1時間かけて調理するなら、11時30分に調理を開始し、12時30分に終えるようにします。
しかし、太陽光の面では正午がもっとも高効率ですが調理には外気温も影響します。外気温がピークになるのは13~14時前後。気温が低い季節には正午よりも少し後のほうが、高温を得られることもあります。調理時には光の高さだけでなく外気温にも注意しましょう。
なるべく多くの光を受けられるように、調理中はときどき照準器の影を確認してクッカーの向きを調整します。また、強風で倒れたりしないように、風のある日はなんらかの物でクッカーを固定しましょう。季節や時間によっては、もっとも効率のよい角度にすると食材が置きにくくなることも。そんなときはなんらかのスペーサーで調整しましょう。
1時間ほど経ったら、瓶を開けて卵を取り出します。天候と季節にもよりますが、瓶の内部はかなり高温になるので火傷には注意が必要です。
今回の撮影は、ときおり雲が光を遮る風の強い日に行ないました。こんな状況では常に瓶が風で冷やされ、雲がかかるタイミングでは蓄熱量<放熱量となり、なかなか温度が上がりません。それでも、卵が凝固する65℃は超えたようで、半熟の卵ができました。条件が良い日なら、かた茹でも難しくありません。
でき上がった茹で卵は、実際に味見してみましょう!味の感想は、ぜひ『やった!レポ』に投稿してください。また、作ったソーラークッカーや調理の様子の写真もあれば、投稿してみんなにシェアしましょう。
ソーラークッカーを使った調理のいちばんの目的は「食材を加熱する」こと。食材の温度は太陽光だけでなく外気温や風、断熱システムにも左右されます。周囲の状況や自分の作ったクッカーをよく観察して、少しでも温度を高められないか工夫してみましょう。
晴天時の太陽光のエネルギー量は1平方メートルあたりおよそ1kw。ソーラークッカーはこのエネルギーを集中させて熱に変換する道具です。変換した熱は、何もしなければ作られたそばから空間中へと散らばっていきます。それを防ぐのが透明な瓶です。光を集め、熱に変え、その熱を蓄熱する。このプロセスによってソーラークッカーは、調理ができるほどの温度を簡便な装置で生み出します。今回はもっともシンプルなシステムを紹介しましたが、パネルの大きさや形、断熱・蓄熱の方法を工夫すれば、より効率よく高温を得ることができるでしょう。
調理器具としてのソーラークッカーのいちばんの特徴は、使用時に地球の環境に悪影響を及ぼさないこと。ガスや電気、薪を使った調理は地下資源を浪費したり、二酸化炭素やススを生み出しますが、地球の外からやってくる太陽光を熱に変えるソーラークッカーは、いくら使っても環境に影響を及ぼしません。生活を便利にする道具やアイデアの多くが、目につかない部分に弊害を隠していることを考えると、太陽光をそのまま利用するソーラークッカーはとてもクリーンな技術といえるかもしれません。