大学では農学部で食品の研究を行い、卒業後は大手コーヒー焙煎会社に就職。東日本大震災を機に、食を探求しその楽しさを発信するために転職し、大規模貸し農園事業を展開。現在はあらゆる自然遊びをサイエンスの視点から語るライターとして活動。狩猟も得意で銃砲店のスタッフとしても活動している。
千葉県君津市に、未来農場CropFarmを設立。twitterアカウントは@Yuu_Miyahara
WILD MIND GO!GO!アンバサダー
食卓に欠かせない伝統食のひとつ、豆腐。日本人にはとてもなじみ深い食材ですが、実際に作ったことのある人は少ないのではないでしょうか?
豆腐の素材は大豆を絞った豆乳とにがりです。豆乳に含まれるタンパク質をにがりで固めることによって豆腐は作られます。
それでは、にがりとはいったいなんでしょう。その正体は海の水。海水を煮て水を蒸発させると、最後に塩といくつものミネラルを含んだ溶液が残ります。この溶液がにがりです。にがりと塩を作るのは簡単。海水を煮詰めて濾すだけで塩とにがりを分離できます。
いくつかの鍋と豆乳があれば、自分で取ったにがりで豆腐を作ることができます。今度の海遊びでは、美味しい豆腐を海の水から作ってみませんか?
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豆乳(大豆固形分10%以上)
500ml
海水
1L
大鍋(容量1L以上)
1個
小鍋(容量500ml以上)
1個
計量カップ
1個
ざる(容量400ml程度)
1個
サラシ布(20×20cm)
1枚
木べら
1本
豆腐は大豆の搾り汁を凝固剤で固めた食べ物で、中国から伝来して室町時代には日本各地に広がったと言われています。
日本の食卓に上がる豆腐には大きく2種類、木綿豆腐と絹ごし豆腐があります。木綿豆腐は、豆乳に凝固剤であるにがりを入れた後、布を敷いた型に入れて圧搾・成形して作ります。その際に豆腐の表面に布目の跡が付くため、木綿豆腐と呼ばれています。もうひとつは絹ごし豆腐。こちらは濃い豆乳とにがりを使い、脱水せずにそのまま固め、最後に水にさらしてアク抜きをして作ります。
どちらの豆腐も手作りが可能ですが、今回は野外でも作りやすい木綿豆腐を例にご紹介します。
海水にはさまざまなミネラルが溶け込んでおり、そのうちの3.5%ほどが塩分で、その塩分の78%ほどが、わたし達がふだん料理に使っている食塩(塩化ナトリウム)です。
海水から食塩を取り出すには、煮詰めて結晶化させる必要がありますが、その工程で分離されるのがにがり。その主成分は塩化マグネシウムや塩化カリウムなどです。塩化マグネシウムには、タンパク質を凝固させる作用があります。
にがりを作る際はなるべくきれいな海水を汲みます。澄んだ海水を入手するコツは、外海に面した磯や堤防、岩浜で海水を汲むこと。川の河口近くや砂浜では不純物が多く混じります。
海水の透明度は潮回りの影響も受けます。潮が大きく動く大潮の前後は、外海から澄んだ水が入り込みやすいですが、干満が小さくなる小潮の前後は岸近くに水が滞留しやすくなります。
また、干潮から満潮へと向かう上潮のタイミングに汲むことも重要です。上潮では新鮮な海水が沖側から流れ込んでくるので、少しひんやりとしていて、それまで磯に滞留していた海水と違うことがわかります。
海水を汲む際は、静かにゆっくりとボトルを沈めます。水面にはさまざまな不純物が浮いているので、少し沈めて不純物の少ない海水を回収します。目に見える不純物が多い場合は、ボトルの口にガーゼなどを当てて濾過しましょう。
海に入って海水を汲むときは、落水・転倒等に注意して作業をしましょう。
にがりと塩を分離する方法は簡単。ひたすら海水を煮詰めます。まずは汲んだ海水が1/10ほどになるまで強火で煮詰めます。このときに使う鍋は広めがおすすめ。コンロの熱が鍋底に効率よく伝わり、液面が広いので蒸発の点でも有利です。
1/10ほどまで煮詰めると海水が少し濁り始めます。これは塩より先に硫酸カルシウムという成分が析出したため。ここで一度火を止めて液体をコーヒーフィルターで濾過し、海水に含まれていた不純物ともに硫酸カルシウムを濾し取ります。
硫酸カルシウム自体は豆腐を固めるにがり成分のひとつなので、分離しなくても問題ありませんが、今回は食塩を取り出すためにひと手間かけて分離しておきます。
硫酸カルシウムを濾過した海水を再び火にかけます。ここからは少し小さめの鍋に移して弱火で加熱します。すぐに塩分が結晶化し始めるので、木べらなどで素早くかき混ぜながら加熱を続け、食塩が結晶化してとろみが出てきたら火を止め、再びコーヒーフィルターで濾過します。
フィルターに残った白い個体が食塩で、下に落ちた液体がにがりです。温度が下がったのを確認したら、さらに手でフィルターを軽く絞り、にがりを出し切ります。
1Lの海水から大さじ1杯ほどのにがりが取れました(本来は透明ですが、木べらの色が出てやや茶褐色になっています)。今回はこの全量を500mlの豆乳に使用します。
沸騰したお湯での食塩の溶解度は28%ほど。これより煮詰めると塩分が結晶化してきます。 塩分が結晶化し始めると液体の粘性が上がり、お湯が跳ねやすくなります。火傷に注意しましょう。分離した塩分は乾燥させると食塩として利用できます。
いよいよ豆腐作りです。材料となる豆乳は大豆を絞って作ることもできますが、今回は市販の豆乳を使います。成分無調整で、大豆固形分が10%以上のものが固まりやすいのでおすすめです。
豆乳を鍋に移し弱火で70℃ほどにゆっくり加熱し、十分に温まったら火を止めてへらで豆乳をかき回しながら素早くにがりを入れます。そのまま10回転ほど静かに回してへらを止めます。
この作業は素早さと慎重さが必要です。混ざり具合が甘いと固まり方にムラができ、混ぜすぎると固まった豆腐がバラバラになってしまうので、少しだけ勘が必要です。よく混ざったら、蓋をして15分ほど置き、温度を下げていきます 。
豆乳は強火で加熱すると焦げ臭さが出やすくなります。ゆっくり加熱しましょう。
鍋が手で触れるくらいの温度に下がったら、余計な水分を抜くためにサラシ布を敷いたざるに流し込みます。にがりが豆乳とうまく混ざっていれば、鍋の中身はヨーグルト状の固形物になっているはずです。ざるに流し込んだら、はみ出しているサラシ布を上に被せてそっと重石を乗せ、15分ほどかけて水抜きをします。豆乳の濃度にもよりますが、500mlの豆乳からおおよそ300mlほどの木綿豆腐が取れます。
さて、なぜ温めた豆乳ににがりを流し入れると固まって豆腐になるのでしょうか? それは、大豆に含まれるタンパク質のグリシニンをにがりのなかのマグネシウムが結びつけるから。豆乳中のタンパク質はマイナスに帯電しており、ここにプラスに荷電している塩化マグネシウムを入れるとタンパク質どうしを結びつけ、凝固が起こります。豆腐は化学反応によって固形になるのです。
豆乳の温度が十分に冷めてからざるに移しましょう。重石の重量で豆腐の硬さを調整できます。
十分に水が切れたら器に取り出します。今回はしっかりと重石を乗せたので、少し硬めの、とても豆の味が強い豆腐に仕上がりました。そのまま食べてもおかずになるほどの味の濃さは自家製ならでは。さらに、にがり作りで取れた塩をかければ、その美味しさもひとしおです。
取り出した食塩は、さまざまな調味料のベースとしても使えます。魚を手に入れて塩で漬け込めば、魚醤を作ることもできます。少し時間は必要ですが、魚醤を自作して豆腐と合わせてみるとより深い味わいを豆腐に加えられます。
世界共通の調味料 魚醤作りにチャレンジしよう!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/192
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
現在、わたし達がスーパーマーケットなどで手にする食品の多くは、工場で大量生産されたものが主流となっています。それは伝統食も例外ではありません。
工場生産と聞くと難しい技術のように感じますが、元々は人の手でひとつずつ作られていたもの。わたし達でもきちんと手順を踏んで手作りすれば、市販品と遜色ないものや、それ以上に美味しいものを生み出すことが可能です。
にがり作りと豆腐づくりでは、加熱や濾過といった作業を通じて、調理に必要な成分を濃縮したり、化学反応によって液体を固体に変えたりします。伝統食ときくと、アナログで情緒的なイメージが浮かびますが、その製造過程では物理や化学の世界に足を踏み入れます。
料理、とくに伝統食の製造の過程では、科学の世界に属する反応をたくさん目にすることができます。調味料の配合だけでなく、調味料がどのように作られるか、それがどのように作用するかを意識すると、ふだんの調理もまた違った輝きを見せてくれるようになるでしょう。