狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
あらゆる野外活動やサバイバルの大前提となるのが「自身の身を守れる場所の確保」です。
風雨から簡単に身を守れる場所がない野外では、体を濡らさずに休憩できる場所を用意しておくことと、それをスムーズに設営できることが重要です。
悪天候からエスケープできる場所として、もっともシンプルなツールがタープ。屋根だけの簡素なシェルターではありますが、幕とロープだけで設営できるので持ち運びの際に軽量で、その下で焚き火ができるなどテントにはない汎用性もあります。
そんなタープを使いこなすなら、自在金具のないシンプルなロープで設営するのがおすすめ。ワンアクションで張り綱のテンションを調整できる自在金具は便利なものですが、地面の状況によってはかえって使いづらいことも。その点で、ただのロープなら状況に応じてアレンジが可能です。
どんな場所でもタープを張れるようになるには、ロープワークの本質を理解していくつかの結びを覚えることが必要です。タープの設営を通じて基本となる結びの意味と効果を意識すると、そのほかのロープワークも自然に身についていくでしょう。
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風に煽られてもばたつかないタープを設営するコツは、強固な支点と梁をつくること。ポールや流木、立木にロープを差し渡してそこにタープをかけることで、タープの下に居住空間を生みだします。
梁を強く張るには「動滑車の原理」を利用した倍力システムへの知識が必要で、強い力のかかるロープを確実に固定し、またほどくためには摩擦についての意識も必要です。
しっかり固定できても、ほどくのに手間がかかっては作業性に難があります。なるべく少ない手数で強固に固定でき、かつ簡単に解くことができる結びこそ「よい結び」といえるでしょう。
野営地に適しているのは安定した平地。周囲の状況を観察し、増水や落石、腐った枝の落下、危険生物などが避けられる場所を選定します。
キャンプ適地が見つかったら、2つの支点の間に梁となるロープを渡し、そこにタープをかけて要所を張り綱で固定していきます。
梁をつくるメインのロープの設営では、起点をつくる「ふた結び(ツーハーフヒッチ)」、 ロープの途中に動滑車をつくる「引き解け結び」、ロープ末端を強く固定する「ノーノット」の3つの結びを使います(写真2)。
メインロープにかぶせるタープの設営ではプルージック(細いロープをリング状にしたもの)を使い、「クレイムハイスト」と「ひばり結び」を駆使してテンションかけます(写真3)。そして、タープの四隅を展張するときは「引き解け結び」と「巻き結び」を併用します(写真4)。
各部で使うロープワークの解説は次のステップで紹介します。
タープを設営する際に最もよい支点となるのが、どっしりと地面に根をおろしている立木。使用するタープの長辺に3~5mほど足した長さをイメージし、その距離感で生える2本の立木を探します。
ちょうどよい木が見つかったら梁となるメインのロープの片側をふた結び(ツーハーフヒッチ)で固定します。
対象の木にロープを回したら、先端側を本線にくるりと巻きつけて先端を対象の木側へ入れます。この状態がハーフヒッチとなります(写真2)。
ハーフヒッチだけでは心許ないので、先端をさらに本線に巻きつけて今度は先端をロープ自身がつくった輪のなかへ入れます(写真3)。このまま結び目を絞ればハーフヒッチを2回繰り返したツーハーフヒッチ(ふた結び)が完成します(写真4)。
ふた結びの構造がわかったところで、実践するときにおすすめしたいのがふた結びを応用型の「引き解けふた結び」にして使うこと。ふた結びの2回目の締め込みの際にロープの末端を通しきらず、折り返して結びの外に残しておくと、末端を引くだけで結びをほどくことができます(写真5)。
引き解けふた結びはふた結びよりも強固ではなくなりますが、ロープにテンションがかかり続ける使い方をすれば簡単にほどけることはありません。
ロープの中途に輪をつくる結びはいくつかありますが、もっともシンプルな方法が引き解け結びです。引き解け結びでつくった輪は、輪の両側を引くだけで結びを解放できるので、設営も撤収も簡便になります。
引き解け結びなどでロープの中途に輪をつくり、アンカーから折り返してきたロープを輪に通して引きつけると、動滑車の原理によって少ない力でも強いテンションをロープにかけることができます。
ここで紹介する方式では、理論上は使った力の3倍の力でテンションをかけられますが、実際にはロープ同士やアンカーとの摩擦によって力が減じるので、1.5~2倍程度の強さで引くことができます。
まずはロープの中途をくるりとひねって輪をつくり(写真2)上になっているロープの側から輪の中に指を入れ、まだ固定していない側のロープをつまんで引き出します(写真3)。そのまま結び目を絞れば、引き解け結びが完成(写真4)。
引き解け結びが完成したら、できた輪をつまんだまま(ここで輪を離してロープに力がかかると引き解け結びが解消されてしまう)、ロープの先端側をもう1本の木に回して折り返し、輪のなかを通します(写真5)。これによって、引き解け結びの輪が動滑車の役割を果たせる構造ができました。
次のステップで動滑車にテンションをかけて固定します。
引き解け結びの輪を通ったあとのロープはテンションをかけて強く張ったあと、「ノーノット」で固定します。ノーノットとはその名のとおり、結ばない結び。結んで固定するのではなく、木の幹にロープを何度も巻きつけることで、幹とロープの間に働く摩擦力で強く引いたロープを保持します。
ロープに強い力がかかると、結び目がかたく締まってほどくのが難しくなることがあります。そんな場面で活躍するのがノーノット。結び目がないので強い力がかかったあとでも容易に解放でき、また、結び目がないのでロープの強度を最大限に引き出すことができます(ロープの強度は結び目で下がる)。
幾重にも巻き付けたあとは、緩まない程度に末端をふた結びで留めたり(写真1)、巻きつけてきた最後の1周に5~7回程度巻きこんで処理します(写真2)。
メインのロープで梁をつくったら、そこに上からタープを被せて、タープの中心線の両端にあるループを固定します(STEP2の写真3を参照)。このループを固定するのに最適な方法が「クレイムハイスト」です。
クレイムハイストは摩擦によって任意の場所にロープを固定する結び。結び目に引く力がかかると強く締まって摩擦力によって固定されますが、場所を移動させたいときは結びを握ってスライドさせると動かすことができます。
この結びを使う上で必要になるのが「プルージック」と呼ばれる細いロープの両端を結んで作ったリング。梁に使ったロープより直径が1/3~半分ほどの直径のロープを使うと、クレイムハイストをつくったときに移動と固定をスムーズに行なえます。
クレイムハイストとタープのループの連結には、通常は小型のカラビナを使いますが、次のステップで現地にある小枝を使うテクニックを紹介します。
メインのロープにクレイムハイストでプルージックを巻きつけたら、プルージックの端をタープのループにくぐらせてから手近な枝を挟み込み、プルージックとタープを連結します。
このシステムを使うと、カラビナなどを用意しなくてもタープにテンションをかけることができます。
プルージックとタープのループの連結で使うのが「ひばり結び」です。プルージックの末端をタープのループに通したら、輪に人さし指と親指をくぐらせてくるりと反転(’写真2)。すると引けば引くほど締まるふたつの小さな輪ができるので、そこに小枝を通してつっかえ棒にします(写真3)。この枝がタープのループからプルージックがすっぽ抜けるのを防ぎます。
タープやテントの張り綱の固定では「自在結び」を使うのが一般的。しかし自在結びは滑りやすい素材のロープには不向きで、また張り綱に強くテンションをかけたいときに力をかけにくい、といったデメリットもあります。
そこでおすすめしたいのが、「引き解け結び」で動滑車を作って倍力システムで強く張り綱を引き、そのあと末端を「巻き結び」で固定する方法です。この方法なら、強風下で風に煽られながらタープを張るような場面でも、張り綱に強くテンションをかけられます。
まずは地面にペグを打ち込みます。続けて張り綱の中途にSTEP4で覚えた引き解け結びを作ります。引き解け結びを保持したままロープの先端側をペグに回したら、引き解け結びのループに通してロープにテンションを与えます(写真1)。
ロープにかかるテンションを保持しつつ、ロープの先端側をくるりと重ねてループをつくり、そのループをペグにかけます。ループをつくるときはロープの先端側が下にくるようにします(写真2)。
続けて、同じようにループを作って再度ペグにかけます。2回目も、ループをつくるロープの先端側が下にくるようにします(写真3)。
これを絞ると完成するのが「巻き結び」。テンションがかかると重なり部分の上側のロープが下側のロープを抑えつける構造で、力が掛かるほど結び目を抑える力も強くなります(写真4)。ロープが滑りやすい素材の場合は写真3の作業を幾度か繰り返すとほどけにくくなります。。
完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。
ロープワークには大きく分けてふたつの機能があります。ひとつは摩擦によってものを強固に固定すること。もうひとつは、動滑車の原理を生かして、人力だけでは生み出せない力をつくりだすこと。タープの設営はこのふたつのロープの力を体感するのに絶好のトレーニングになります。
そして、ロープワークが身につくと、野外でできることも行ける場所も飛躍的に拡張していきます。重量物の固定や移動、自身の安全確保……。見方を変えれば、ロープワークが身についていないと挑戦することもできないアクティビティや場所がたくさんある、と言えるかもしれません。
ロープワークを早く習得するコツは、日常的にロープに触り続けること。手の届く場所にロープを置いて反復練習しているうちに、考えなくてもスルスル結べるようになっていきます。