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飲む。見る。歩く。自分のなかを流れる「川」から自然保護を考える

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岩橋大悟

自然観察指導員
都市にいる自分と大自然をつなぐ「水」を感じる

2024年3月、PRO TREKから「生命を育む水」をテーマにした新モデルが発売されました。何を隠そう、私が勤務するNGO、日本自然保護協会とのコラボレーションモデルです。このモデルのテーマとなったのは人の生活に欠かせない「水」。豊かな自然が生み出す「最初の一滴」と都市で暮らすみなさんのつながりについて解説します。

╲生命を育む水をテーマにした、「日本自然保護協会」コラボレーションモデル/
PRW-61NJ
PRO TREKは日本自然保護協会とのコラボレーションを通じて、自然の美しさとそれを守る大切さを発信しています。今回のモデルは、「生命を育む水」がテーマ。利根川の源流「みなかみ」エリアの自然をモチーフに、水のライフサイクルをホワイト×ブルーのアクセントカラーで表現。地域のシンボルであるイヌワシをデザインに落とし込みました。さらに、再生素材やバイオマスプラスチックを採用するなど、マテリアルでも自然との共生を表現しています。

READY
準備するもの
  • スマートフォンかパソコン

    1機

STEP 1

母なる川を思い浮かべる

  • 多摩川中流域。東京に残る貴重な自然環境

「あなたにとって母なる川はどこですか」と聞かれたとき、思い浮かぶ川はありますか?「母なる川」の定義がきちんとあるわけではないし、「父」だっていいわけですが、"自分が慣れ親しんだ川"を思い浮かべることができたら、それがあなたの母なる川です。ということにここではしたいと思います。

ちなみに、私の母なる川は多摩川です。山梨県の笠取山(標高1,953m)にその一滴を発して、東京都、神奈川県を経て東京湾に流れ込む延長138kmの一級河川です。子どもの頃、じいちゃんと一緒に鯉や鮒釣りを楽しんだ川が多摩川だから、慣れ親しんだ川といえば多摩川がすぐに思い浮かびます。私にとっては「祖父なる川」と言えるかもしれません。

そんなこと考えたこともない、という人もいれば、そもそも慣れ親しんだ川なんてないという人も多いかもしれません。そんな人は、地図を開いて家の近くの大きな川を探してみてください。たいていの場合、家の一番近くにある大きな川があなたの母なる川です。

遊びに行ったこともない川を母なる川と言われても……と思うかもしれませんが、川は必ずあなたとつながっています。家庭につながる蛇口の先には水道管があり、水道管の先には浄水場があり、浄水場の先には川があります。そして、その川は深い山々から細い水を集めて1本の川となっています。みなさんの家の上下水道は、山に降った水がちょっとあなたの暮らしと身体に立ち寄って、また川へと帰っていく1本の支線なのです。

STEP 2

飲める水の源を知る

  • 水道水をそのまま飲める国は少ない

日本には3万を越える川があると言われています。水路などもいれたらもっとあります。川や水路の数が象徴するように、日本は世界でも水に恵まれている国のひとつです。蛇口を捻れば水が出る。しかも、飲むことのできる水が出る。当たり前すぎて、子どものときに教わった「水を大切にしよう」という戒めを忘れてしまうくらいです。

しかし、世界に目を向けてみると、「水戦争(水紛争)」という言葉があるくらい水に困っている国がたくさんあるし、水をめぐって争いが起きるほど。「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」(世界銀行元副総裁 イスマイル・セラゲルディン氏)と言われるくらい、世界の水不足は深刻です。

ちなみに、国土交通省が出している「令和4年版 日本の水資源の現況」によれば、水道水をそのまま飲める国は、世界中でたった11か国しかないそうです。日本はその数少ない国のひとつです。すごいですよね。

そんな「飲める水」はどこからやってくるのでしょうか? 東京都の場合、水源のほとんどが河川の水で、その80%が利根川及び荒川水系、17%が多摩川水系からやってきます(残る3%は相模川水系)。実に、東京都民を支える水の8割は、都民から遠く離れた場所に降った水なのです。

STEP 3

水道から水源をたどる

  • 国土地理院ウェブサイト航空写真を加工
  • 国土地理院ウェブサイト航空写真を加工
  • 東京で使う水を浄水する朝霞浄水場
  • 荒川の秋ヶ瀬取水堰

今度はウェブ上の地図を開いてみましょう。都民でない方もどうぞお付き合いください。最初に検索する言葉は「朝霞浄水場」。この浄水場は都民が利用するきれいな水をつくる浄水場のひとつです。名前を検索すると、すぐに街中にプールを並べたような施設が見つかるはずです。

そこから北東を見ると「朝霞浄水場排水処理場」、新河岸川を挟んで「朝霞水路2号沈砂池」が見つかります。しかし、この沈砂池につながる水路は見えません。水道管が地下を通っているのでしょうか? そこで沈砂池の横の大きな通りを北東にたどっていくと……。荒川を遮る「秋ヶ瀬取水堰」が見つかります。この堰が都民の使う水の直接的な取水堰になります。さらにたどっていきましょう。荒川をずっとなぞっていくと埼玉県の鴻巣市にある糠田橋の上流側で1本の水路が合流します。この水路の名は「武蔵水路」。この水路をずっとたどっていくと「利根大堰」で利根川につながります。

今度は利根川を遡ってみます。衛星画像では、下流域では灰色の市街を流れていますが、遡るにつれて川は茶褐色の田園地帯に入ります。榛名山と赤城山の間を北西に抜けると背景は深い緑色になります。さらに目をやれば、谷川岳や朝日岳といった山の名前が目に入るでしょう。これらの山々に降る雨が、都民の家に届く水の水源の最初の一滴です。これらの山々よりも南東側へ降った雨は太平洋に流れ、北西側に降った雨は日本海側へと注ぎます。

都民でない人は、自分の街の浄水場の名前を調べ、そこに水を送る川をみつけて遡ってみましょう。その川は利根川と同じように市街地を抜け、田園地帯を抜け、やがて緑の深い山へと入っていくはずです。多くの川の水源には、深い森が広がっています。この森こそ、日本の水道がそのまま飲めるほどの水質を保っている理由のひとつです。

STEP 4

最初の一滴を育むみなかみ町の取組みを知ろう

  • みなかみの自然を象徴するイヌワシ 撮影:上田大志
  • 定点カメラに写ったツキノワグマ
  • 特別天然記念物のニホンカモシカ
  • 地域と一丸となって行われる赤谷での活動

さて、この利根川源流域の群馬県みなかみ町こそ、今回発売されたPRO TREKのモチーフです。みなかみ町は群馬県の北部に位置しており、山を越えれば新潟県。県内一の面積を有しており、その広さは約8万ha、90%を森林が占めている自然あふれる町です。

谷川岳の登山をはじめ、スキーやラフティングなど、アウトドアスポーツのメッカとも謳われるみなかみ町は、2017年にはユネスコエコパークにも認定され、人と自然が共生する地域として世界にも認められました。

みなかみ町にはたくさんの哺乳類や鳥類、植物が棲息していますが、なかでもみなかみ町の自然を特徴づける生物が絶滅危惧種のイヌワシです。みなかみ町の標高の高いエリアを訪れたとき、運が良ければイヌワシが悠然と空を舞うの姿を見ることができるかもしれません。

こう書くと、みなかみ町には豊かな自然があふれているにように思えますが、こんなみなかみ町も森林や里地里山の荒廃、ニホンジカの増加といった日本の山里が抱える課題に悩まされています。奥山の自然と人の関わりの縮図とも言えるみなかみ町では、行政や地域住民、NGOや企業などが参画して、自然保護に取り組んであり、日本でも有数の先進地としても注目されています。

そのひとつが2004年に始まった「赤谷(あかや)プロジェクト」です。800以上あると言われている利根川支流のひとつ、赤谷川周辺の森は自然環境の変化に富み、昔から人々はこの森と関係を築いてきました。この森は、イヌワシ、クマタカ、ツキノワグマなどの生息地であると同時に首都圏の水源にもなっています。1990年前後、森を壊してダムとスキー場をつくる計画に揺れましたが、地元の人たちや日本自然保護協会の活動が実ってなんとか守ることができました。守ることができた森をさらにより良い森に再生して、その森の恵みを持続的な地域づくりに活かしていく活動が20年ほど続けられています。

このプロジェクトに端を発した自然再生と自然を活かした持続的な地域づくりの取り組みは、その輪を広げ、2017年にはみなかみ町全域がユネスコエコパークにも認定され、人と自然が共生する地域として世界にも認められました。今ではみなかみ町の子どもたちに思いと活動が受け継がれています。

STEP 5

最初の一滴を目指す

  • 源流への道は長く険しい
  • 利根川の最源流。三角雪田。
  • 三角雪田から流れ出る利根川の一滴
  • 関東を横断する利根川水系
  • 「PRW-61NJ」アクセントカラーで利根川流域を表現

赤谷の森の周辺を散策するだけでも、みなかみ町の自然を感じることができますが、腕に自信のある人なら、さらに奥で生まれる利根川の最初の一滴を見ることができるかもしれません。しかし、それを見るにはそれなりの準備と経験が必要です。

利根川のいわゆる源流はみなかみ町の最北端。車で行けるのは奥利根湖(八木沢ダム)まで。船をチャーターして奥利根湖のバックウォータまで行き、そこから徒歩で3泊4日の道のりです。いわゆる登山道はなく、日本屈指のグレードがつけられた険しい沢歩きとなります。

立ちはだかる数々の滝や雪渓を越えていくと、最後に辿り着くのが大水上山(1,831m)の斜面に広がる三角雪田。その雪田から流れる一滴が、「坂東太郎」(ばんどうたろう。“東国にある日本一の大河”)こと利根川の流れとなり、3,000万の人々の暮らしを支えてくれています。

自信のある方はぜひ挑戦してみてください。私も一度挑戦しましたが、なかなかハードな道のりでした。三角雪田に辿り着いたときはとっても嬉しくて、雪田から流れ出る利根川の最初の一滴の味は一生忘れられない思い出になっています。

ちなみに、新潟県側からは一般登山道があるのでご安心を。きつい登りが続きますが、みなかみ町から目指すよりは遥かに容易です。ぜひ、調べてみてください。

╲生命を育む水をテーマにした、「日本自然保護協会」コラボレーションモデル『PRW-61NJ』/
https://www.casio.com/jp/watches/protrek/products/prw-61nj/

STEP 6

『やった!レポ』に投稿しよう

完成したら、写真をとって『やった!レポ』に投稿しましょう!苦労したことや工夫したこと、感想などあれば、ぜひコメントにも記載してください。

MATOME
まとめ

豊かな水を生むには豊かな自然が欠かせません。豊かな自然を育むには豊かな水が欠かせません。たくさんの生きものたちがいる森が、里が、川が、海が、豊かな水を育み、その水に育まれてもいます。

豊かな水に育まれた日本ではありますが、その自然は危機的な状況です。ここ100年にも満たない私たちの暮らしの急速な変化は、社会的・経済的な豊かさを追い求めるばかりに、その基盤である自然をあまりにも蔑ろにし過ぎました。結果、森も、里も、川も、海も、それぞれ大きな課題を抱えています。

日本は地球上で生物学的に特別豊かでありながら、同時に破壊の脅威にさらされている場所として“生物多様性ホットスポット”に選定されています。日本だけでも3,700種を超える生きものたちが絶滅の危機に瀕しているのは驚きです。 この事実をどれだけの人が実感・認識しているでしょうか。もしかすると、水が当たり前にあるように、自然も当たり前にあると思っている人がほとんどではないでしょうか。ふと気づいたときには当たり前だったはずの自然がもう取り返しがつかない状態になっている……。今、私たちはそんな岐路に立たされているのです。

自然の危機的な状況は日本に限ったことではなく、世界的にも深刻です。この危機感が共有されて、2022年12月にカナダのモントリオールで開かれた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、人と地球のために、生物多様性の損失を止め、自然を回復させる「ネイチャーポジティブ」が2030年までのミッションとして掲げられました。

自然を保護し、回復させると聞くと、とても個人では取り組めない大きなテーマのように思えますが、私たち一人ひとりの生活スタイルが地球環境を悪化させてきたことを考えると、一人ひとりが態度を改めれば、自然は良い方向へ向かっていくとも考えられます。人と自然をつなぐ水に思いを馳せるのは、そんな取り組みを始めるきっかけになると思うのです。

GROW CHART
成長スコアチャート
野性3
5知性
3感性
アクティビティ
感じる
環境
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
1日以上
対象年齢
小学校中学年以上
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