幼少期を豪雪の自然豊かな地域で育ち、大学時代に野外教育を学ぶ機会を得て、富士山麓の民間団体「ホールアース自然学校」に就職。プロとしてキャンプや教育旅行、エコツアーを提供するとともに、全国各地のプログラム開発や人材育成に関わる。2006年より松本大学総合経営学部観光ホスピタリティ学科に在籍。エコツーリズムや自然体験活動、環境教育を大学教育で取り扱う。ほかにNPO日本エコツーリズムセンター共同代表理事、自然体験活動推進協議会トレーナー(2016年現在)。
風のない時間帯を選んで、平らな所で目を閉じて、静かに風見鶏(かざみどり)のように風を感じます。すると、ほおに当る少しの風の存在や、一歩自分が歩き出すことで起こる風の存在に気づけるはず。次に、その風を感じながら、目隠しをしたままで、まっすぐに前に向かって歩いてみましょう。
無風に近い状態では、目を閉じるとまっすぐに歩いているつもりでも、意外に思うように歩けないもの。人にもよりますが、大きく右や左に回って歩いてしまいます。これは、山で雪や雲などによって視界が白一色になり、方向・高度・地形の起伏が識別不能となる現象「ホワイトアウト」で遭難する、「リングワンデリング(同じ場所をぐるぐる回ってしまう)」という状況に似ています。
このHow toを行うことで、小さな風を感じる感性を研ぎ澄まし、自分の身体感覚の癖を知ることにも役に立ちます。
風のない時間帯に、音のない平らな広場を見つけたら、友達や家族と一緒に出かけましょう。
広場にでたら、他の人と少し離れて、それぞれひとりで立ちます。目を閉じて両手を広げ、風見鶏のような気分で風を感じましょう。そして、小さな風が来る方角に体全体を向けます。
おしゃべりはせずに、音を立てないで、自分の気配を消して、ただその場所に立って風を感じます。
そのまま少し歩いてみます。自分の動きで風が起こるのを感じます。また、歩くと風の来る方角が分かり、広場でどのように風が舞っているのかが分かるようになります。立っている場所によって、風の吹く方角が違うこともあります。隣の人の向く方角をちらりと見て、その軌跡をお互いに確認してみましょう。
ふたり組になって広場の端に移動し、「歩く人」と「後ろから付き添う人」を決めます。
歩く人は、自分の進む方向を決め、その先の目印となる目標物を見つけて付き添う人に伝えます。次に、目標物に体を真っ直ぐ向けたら、目隠しをします。
目標物は、電柱や遠くの山、建物など、立っている位置から見て一直線に確認できるものを選びます。後で目標からずれた時に、確認がしやすくなります。
歩く人は、視覚以外の 風、音、足元の感覚などを使って、まっすぐに歩いていきます。
付き添う人は、足音を立てずに後ろからそっとついていきます。どれだけ相手が曲がって進んでも、黙ってついていきます。
ただし、段差やフェンスなど、歩く人に危険なものが近づいてきた時は、肩を叩いて「ストップ」を伝えます。歩く人は、肩を叩かれたら歩みを止めます。そこからは、付き添う人が、歩く人の体を、目標物の方向に修正してあげて、「スタート」の合図に肩を叩いて教えてあげます。
歩く人が目標物にたどり着いたり、直線からそれて目標物の近くまで来たら、肩を叩いて「ストップ」を伝えます。そして、目隠しを外して来た道を確認してみましょう。
どうですか、まっすぐに歩いてきましたか?
※歩く人、付き添う人の役割を代えてSTEP4から体験してみてください。
目標物の方向にまっすぐ歩くのはなかなか難しいものです。途中で右にふれたり、左にふれたり、左右に蛇行して進む人もいます。この理由は、体の重心は人によって若干偏りがあるため。無風状態の平地を目隠しで歩くと、自分の体の癖が出てしまい、まっすぐに歩くことが難しくなるのです。山のホワイトアウトで遭難する時も、こうした体の癖が出やすい傾向にあると言われます。または、目標を失った時に「もしかして右にずれて歩いているのかも」という遭難者の心理的不安が、知らず知らずのうちに重心を偏らせ、長く歩くうちに大きく曲がってしまいます。ホワイトアウトでは目標物が近いのに周辺をぐるぐる回ってしまう、ということが起こります。こうした状況を山ではリングワンデリング(またはリングワンダリング)と呼んでいます。
無風と思われる状態でも、少しの風の存在を感じることができれば、自然と自分の体を感覚でとらえることがでるようになります。大きくずれてしまった場合は、その軌跡をたどることで、身体感覚の不安定さに気がつき、苦笑いしてしまうかもしれません。
このHow toを通して、小さな風を感じる感性を研ぎ澄まし、自分の身体感覚の癖を知ることに役に立ててみてみましょう。