一般社団法人国際STEM学習協会 理事
慶應義塾大学 研究員
計測機器メーカーに6年勤めた後、FabLabの活動に感銘を受け、オランダのAmsterdamで、FabLabが実施する教育プログラム、FabAcademyを受講する。その後、日本で最初のFabLabであるファブラボ鎌倉にてデジタルファブリケーションエンジニアとして働く。FabLabでは機構設計、電子回路設計、ソフトウェア開発を組み合わせ、デジタルファブリケーションが生み出す新しいものづくりの可能性を探求している。
公園や海岸を散歩していると、鳥のように空から景色を眺めてみたい、空から映像を撮ってみたい、と思うことがあります。空から映像を撮る方法として、最近はドローンが流行っていますが、ほとんどの場所が飛行禁止になっています。どうやったら手軽に空から映像を撮ることが出来るでしょうか?
僕が所属しているファブラボでは、やりたいと思ったことがあれば、手を動かしてモノをつくりながら、アイデアを実現していきます。その過程では、失敗することもあります。失敗を良くないことだと捉える方もいますが、失敗の原因をよく考えると、次の行動に移るときの指針を与えてくれます。
失敗も含めて、アイデアを実現する過程を読んでいただきながら、興味を持った方は手を動かして必要なモノをつくり、空からの撮影に挑戦してみましょう。
*トップ画像:カイトフォト:CC-BY-SA3.0
カーボンロッド(直径5mm)
薄くて丈夫な布
縫い針
まち針
糸
チャコペンシル
定規(1m)
裁ちばさみ
糸切りばさみ
凧糸
カメラ
MDFの板(厚さ3mm)
アイピン
金属リング
カシメ
カシメパンチ
ミシン
3Dプリンター
レーザーカッター
空から写真を撮るために、まず思いついたのは、パラシュートにカメラを取り付けて、高いところから放り投げるという方法です。そこで1枚目の画像のようなパラシュートを購入し、カメラを取り付けるための治具をつくりました。
早速、自宅の近くの砂浜に行き、少し高い位置からパラシュートを放り投げてみました。結果、カメラは想像していたより速い速度で落下していきました。撮影した動画を確認すると、とても短い揺れの激しい映像がおさめられていました。
この方法では、撮影時間がほとんど確保できないこと、揺れが激しく綺麗な映像を撮ることはできないということがわかりました。
解決策としては、より高い位置から投げる、揺れを軽減する治具を作成するということが考えられます。しかし高い位置から放り投げると落下位置が特定しにくくなるので、別の撮影方法を考えることにしました。
次に考えたのは、カイトにカメラを取り付けて空から撮影する方法です。
この方法を調べると、既にカイトエアリアルフォトグラフィーというジャンルがあり、世界中に愛好家がいました。この方法で、最初に空からの撮影に挑戦した人は、アルトール・バチューというフランス人で、1888年に行われました。今から100年以上も前に、空からの撮影に挑戦していた人がいたのは驚きですね。(2枚目の画像)
カイトを使って空から撮影する方法でも、カメラが揺れる問題は起きます。その対策には、フランスのPicavetさんが考案したPicavet Suspensionという仕組みを使います。(3枚目の画像)
それでは早速つくっていきましょう。まずはつくるカイトを決めます。
カイトにはいろいろな種類があります。例えば日本の六角凧や角凧、西洋のデルタカイトやフォイルカイトなどです。それぞれ特徴があるので、いくつかつくって比べてみると楽しいと思います。
今回は、つくりやすく、安定しているデルタカイトをつくります。デルタカイトはその名の通り三角形のカイトで、空からの撮影用によく使われています。
つくるカイトを決めたら、大まかなカタチと構造のスケッチを描いてみましょう。
スケッチは紙に描いてもいいですし、ソフトウェアをつかって描いてもいいです。得意な方法で描いてください。
スケッチを描いていると、「この部分はどのように部品を取りつけよう?」とか、「どこまで縫い合わせると良いのだろう?」と細部の構造に関する疑問が湧いてきます。このような疑問はスケッチの段階ですべて解決するのは難しいので、疑問を書き留めておいて、つくりながら解決法を探っていきましょう。
スケッチで大まかなカタチと構造を決めたら、寸法図をつくります。
今回は画像の図にあるサイズでつくっていきたいと思います。カイトの大きさは実線で描いている大きさになります。点線は切り取り線で布の端処理をする縫い代を10mm、カーボンパイプを通す余白20mmを含む大きさです。
カイトエアリアルフォトグラフィーでは、カメラを持ち上げなければならないので、大きめのカイトが必要です。今回使用するカメラは100グラム程度の小さいモノですが、より大きいカメラを使う場合は、今回使用するカイトより大きくつくらなければなりません。
ここでは、対衝撃性能が高いカシオのデジタルカメラ(EX-FR110HとEX-FR100)を使用しました。
EX-FR100:http://casio.jp/dc/products/ex_fr100/
EX-FR110H:http://casio.jp/dc/products/ex_fr110h/
デザインとサイズが決まったら、部品をそろえましょう。
今回作成するカイトに必要な部品はホームセンターやアマゾンで大抵そろえることが出来ます。布はユザワヤなどの手芸店に行くといろいろな種類がおいてあるので、欲しいものを見つけられるでしょう。
部品を手に入れたので、つくっていきましょう。
まずはカイトのウイングとなる布の裁断をします。デルタカイトは左右対称のデザインです。そのため布を二つ折りにして裁断すると、左右で大きさにずれが発生することはありません。布を二つ折りにして、まち針で複数箇所をとめておきましょう。
まち針でとめたら、裁断する箇所にチャコペンシルと定規を使って線を引いておきます。チャコペンシルがない場合は普通のマーカーなどで代用できます。
線を引いたら裁ちばさみで布を切っていきます。普通のはさみでも布を切ることは出来ますが、切れ味の悪いはさみだと、綺麗に切れないので可能な限り切れ味の良いはさみを使いましょう。
布をピッと張って、裁断していくと綺麗に裁断することが出来ます。筆者は普段硬い素材ばかり使っているので、布の扱いに慣れておらず、綺麗に裁断するのにとても苦労しました。多少切り口が汚くてもカイトが飛ばなくなることはないので、気軽に裁断していきましょう。
裁断が終わったら、まずミシンで布のまわり全体をほつれないように端処理します。
カイトの大きさより10mm大きく裁断しているので、10mm折りたたんで端処理をしていきます。
端処理が終わったら、ウイングを二つに折って間にキールをはさみ、縫い合わせます。縫い合わせた箇所の一部が袋状になりますので、ここに後からカーボンパイプを差し込みます。カーボンパイプの端にはキャップを取り付けますので、キャップをつけるところのみ縫わないで置いておきましょう。
ウイングの左右にもカーボンパイプを通しますので画像を参考に袋状に塗っていきます。緑の点線の箇所のみ縫い合わせ、白い箇所は縫わないで置いておきましょう。
ミシンに慣れていない方は、ミシンで本縫いする前に、アイロンで折り目をつけて、手で仮縫いしておくと綺麗に縫うことが出来ます。
間違えて緑の点線が描かれていない箇所を縫ってしまっても慌てなくて大丈夫ですよ。あとから布にはさみを入れて一部を切り取ってそこからパイプを出すことが出来ます。その際は穴を空けた箇所がほつれないように補強しておきましょう。
カーボンパイプの端につけるキャップとジョイントを3Dプリンターでつくります。
今回使用するカーボンパイプの直径は5mmです。キャップは5.0mmと5.2mmのデータを用意しました。しっかり固定できる方を使用してください。3Dプリンター用のデータは、以下のURLからダウンロードすることが出来ます。
3Dプリンターをお持ちでない方は、お近くにファブラボのようなモノづくり施設があれば、そちらでプリントすることができます。
*カイトパーツのダウンロードはこちら(Thingiverse)
https://www.thingiverse.com/thing:2166292
近くにファブラボのようなモノづくり施設がない場合は、身近な道具で代用することが出来ます。
3Dプリンターで作成したキャップはビニルテープで代用できます。ビニルテープをカーボンロッドの端にぐるぐる巻きつけておけば、カーボンロッドはずれなくなります。
3Dプリンターで作成したジョイントは、凧糸のような紐やビニルテープで代用できます。リーディングロッドとトップロッドを交差させて、紐やテープでぐるぐる巻きにして固定します。
カイトに糸を結びつけるために穴を空けて、ハトメで補強します。
キールにハトメパンチを使ってハトメを取り付けます。今回使用するハトメは5mmのハトメです。
ハトメがない場合は、布を一部はさみで切り取ってボタンホール状に糸で補強して、凧糸用の取り付け穴をつくっても良いです。
今まで製作した部品を組み合わせてカイトをつくります。
まずはセンターロッドをウイングの中心の袋状に縫い合わされた箇所へ垂直に差し込みます。センターロッドの端が上下の縫い目の両端から出ますので、そこにキャップをはめて抜けないようにします。
次にリーディングロッド2本をウイングの左右の袋状に縫われた箇所へ、それぞれ斜め向きに差し込みます。ウイングの中央付近で縫われていない箇所があるので、そこまで差し込んだらジョイントを通しておきます。ジョイントを通したら、また袋状に縫われた箇所を通し、両端にキャップをはめます。
最後に、左右のジョイントにトップロッドの両端を、トップロッドが水平になるようにはめて完成です。
お疲れ様です。これでデルタカイトが完成しました。あとはカメラを取り付ける治具をつくれば、空からの撮影に出かけることができますね。
カイトが完成したので、次にカメラの揺れを軽減するための治具、Picavet Suspensionをつくります。
まずはレーザー加工機で台座となる十字形を製作します。データは3Dプリンター用のデータと一緒にダウンロードできます。記事の中間あたりのリンクからダウンロードサイトへ移動してください。 レーザー加工機は3Dプリンターと同様、近くにモノづくり施設がある場合は、そちらで利用できます。
次に穴にアイピンを取り付けます。アイピンはホームセンターなどで購入することができます。すべてのアイピンが平行になるように取り付けてください。
アイピンを付け終えたら、丈夫で滑りの良い紐を使って、上図のようにリングと併用して紐を通していきます。紐の端はジョイントに取り付けて完成です。
近くにモノづくり施設がない場合は、適当な木片で代用します。その際、重心が中心にないといけませんので、正円や正方形の板を利用しましょう。この木片にアイピンを取り付けます。このアイピンを取り付ける位置は、左右前後が等距離になるように配置しなければなりません。
レーザー加工機を使わずに手で加工する場合は、定規を使って正確に穴の位置を決めてください。
製作したカイトや、空撮した写真を『やった!レポ』に投稿して、他の人ともシェアしましょう。
質問や感想があれば、ぜひコメント欄に書き込んでください。
いかがでしたか?難しそうと感じたところがあるかもしれません。記事を読んでわからないところがあっても、カイトを使って空から映像を撮ることに興味があれば、一度カイトをつくってみることをおすすめします。
手を動かしてつくりはじめると、文字を読んでいたときにはわからなかったことが、すっと頭に入って理解できることがあります。また逆にまったく想像していなかったトラブルにあうこともあります。そうした過程を経ることで、だんだんと自分が思い描いていたアイデアをカタチにするスキルを身につけていくことができます。
冒頭でも触れましたが、つくる過程で失敗すると、その結果から多くのことを学べます。ぜひ、失敗も経験しつつ、カイト製作に挑戦してみてください。