1979年、群馬県桐生市生まれ。宇都宮大学農学部卒業、東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了。論文「ハシブトガラスの発声に関する研究」で博士(農学)。総合研究大学院大学助教を経て現職。宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター特任助教も務める。動物行動学・動物解剖学などを専門とし、主に、カラスの音声コミュニケーションに関する研究に従事する。鳴き声を用いたカラスの行動をコントロールする技術を基に、製品やサービスを提供している。著書に『カラスをだます』(NHK出版)。
カラスは、同じ街で暮らすとっても身近な野生動物です。しかし身近な存在のはずであるカラスについてあまり知られていません。今回は、カラスはどんな生活をしているのか、またいつも何気なく聞いていたあの鳴き声の意味を紹介します。またカラスについて知るだけでなく、カラスの鳴き真似を練習し、挨拶を交わすことにもチャレンジ!意外とびびりなカラスに、警戒されないように心を通わせることはできるか?挑戦を通じて、カラスとの毎日をたのしく変化させてみましょう。
カラスと挨拶するためには、まずはカラスがいっぱい集まる人気スポットを探しましょう!では、いつ、どのようなところにカラスがいっぱい集まるのでしょうか。カラスの1日を追ってみます。
カラスの朝は早いです。日の出の少し前、うっすら明るくなり始めた頃、カラスはねぐらを出発します。まずは食べ物の確保です。あるカラスは畑へ虫をほじくりに、あるカラスはゴミを漁りに、など自分のお気に入りの餌場を目指します。自分の餌場を巡回し、お腹がいっぱいになると、公園などで水浴びや毛づくろいをして、夕方までのんびり過ごします。夕方になると、カラスはねぐらに向かいます。ねぐらに入る前は、一旦近くの高い建物や電線などに集まり、日が沈む頃にねぐらに入り朝まで過ごします。
カラスの1日の過ごし方を踏まえ、あなたの身近な環境のどこにカラスがいっぱい集まりそうか、想像力を働かせて探してみましょう。
早朝であれば、飲食店のゴミが大量に出る繁華街などにカラスが多数現れます。日中は、市街地に近くて、多数の樹木と水場があるような大きな公園が人気です。夕方は、ねぐら付近が狙い目。見つけやすいねぐらは、市街地に近い大きな森や高い樹木が多くある神社などです。
カラスは様々な鳴き声で鳴きます。例えば、警戒しているとき、威嚇しているときの鳴き声、また求愛しているときの鳴き声などがあります。鳥の中でもバリエーション豊富なカラスの鳴き声を種類ごとに聴き分けることはなかなか難しいです。しかし「コンタクトコール(お互いを確認し合う挨拶のような鳴き声)」には比較的わかりやすい特徴があります。それは繰り返しのない「アー」です。実際にカラスのコンタクトコールを聴いてみましょう。
この鳴き声のソナグラムが、STEP2の図です。最初のカラスがコンタクトコールを鳴いたあと、別の3羽のカラスがコンタクトコールで鳴き返しています(もしかしたらdはaと同じカラスのコンタクトコールかもしれません)。いずれの鳴き声も繰り返しがない1回のみの鳴き声です。この「アー」を繰り返し聴いてよく覚えてください。
コンタクトコール以外に警戒コールと威嚇コールの例も以下で紹介してます。コンタクトコールとの鳴き声の違いに意識して聞いてみてください。
「警戒コール」
では、実際にカラスの人気スポットに行って、コンタクトコールを聴き分けてみましょう。いろいろな鳴き声が聴こえると思いますが、繰り返しのない鳴き声はそれほど多くないと思います。場所によってはコンタクトコールが聴こえない場所もあるかもしれません。その場合は、場所や時間を変えて挑戦してみてください。
コンタクトコールの特徴は、「アー」というひと鳴きです。良くカラスの鳴き声は「カー」と表現されますが、音としては、どちらかというと「アー」に近いと思います。尻上がりの比較的澄んだ鳴き声ですが、少し濁りがあります。「アー」と「ウァー」、「ガー」を混ぜたような音と言ったら良いでしょうか。カラスの鳴き声はこの濁りが特徴的です。鳴き真似をするのであれば、この濁りをどう出せるかがポイントになると思います。口を「ウォ」の形にして、「アー」と言ってみてください。舌は引っ込め、喉の奥の方で声を出すようなイメージです。
練習には、スマートフォンやicレコーダーを使いましょう。鳴き真似を録音してみてください。その後、録音した音と実際のカラスのコンタクトコールを聴き比べましょう。あとは近い音になるように、ひたすら練習あるのみです。
さて、実際にカラスに向かってコンタクトコールの鳴き真似を聞かせてみましょう。ただ、この際に気をつけなければならないことがあります。カラスと仲良く挨拶を交わすには、以下のふたつにご注意ください。
ひとつは場所です。カラスのテリトリー内でコンタクトコールを発してはいけません。なぜなら、テリトリーに侵入者があったと勘違いするためです。例外もありますが、カラスは子育てのためにテリトリーを作ります。餌が確保しやすい場所、水場が近い場所、周りが見渡せる場所などカラスの好む条件があります。それらを満たした人気のテリトリーは、常に競争があり、カラスの夫婦は頑張ってテリトリーを守るのです。ですので、カラスのテリトリー内でコンタクトコールを発すると、仲良くなるどころか、ケンカをふっかけるようなものなので、やめましょう。
では、テリトリーはどう見極めるのでしょうか?上述通り、子育てのためなので、ペアの2羽と子供2~3羽の合わせて5羽程度です。6羽以上の集団がいる場所であれば、その場所がテリトリーになっていることは考えにくいです。朝の繁華街や日中の公園などでカラスが複数いるような場所で試してみてください。
それから、もうひとつ注意すべきことは、カラスに姿が見られないようにすることです。姿を見られてしまうと、人が鳴き真似をしていることがバレてしまいます。カラスは非常に視力も良いので、物陰に隠れるなど、カラスの死角から鳴き真似をしてください。
もしうまくいけば、STEP2の動画のように、カラスからコンタクトコールが返ってくるはずです!
このHow toを参考に、カラスと挨拶を交わしてみよう!挑戦してみたら、記念に写真をとって『やった!レポ』に投稿してください。鳴き真似で苦労したことや工夫したことがあればコメントに記入してください。
チャレンジはいかがでしたか?鳴き真似を覚えるには何度もカラスの鳴き声を聞かなければなりません。よく聞いてみると、カラスは色々な鳴き声で鳴いていることがわかります。また、挨拶を交わすためにはカラスの人気スポットを探して、カラスの行動を観察しなければなりません。その中で、風乗りをするカラスやケンカをするカラス、毛づくろいをするペアなど、これまでみたことなかったカラスの世界を垣間見ることができたのではないでしょうか?それから、カラスに近づくと警戒され逃げてしまうなど、カラスが意外とビビリということがよくわかるかと思います。
毎日見るカラスなのに、知らないことが多かったのではないでしょうか?カラスは非常に身近ですが、その生態は正しく理解されていないことが多いです。カラスと人との摩擦は、相手をよく知らないことで起こっていることが多いと思います。チャレンジしたあなたはカラスについてもっとよく知りたくなったのではないでしょうか。それはきっと、カラスと良好な関係を築き、共存する社会の実現の第一歩になるはずです!