海洋生物学者(理学博士)千葉工業大学惑星探査研究センター。東京大学総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系博士課程、海洋研究開発機構研究員を経て、東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻。専門は深海生物学、海洋生態学。2008年東京大学海洋研究所HADEEPプロジェクトにて乗船研究代表者として、世界初超深海7703mの日本海溝での生きた魚の撮影に成功。東日本国際大学経済情報学部特任准教授を経て、2015年よりNOAA(アメリカ海洋大気局)深海調査航海のサイエンス・チームに参加。著書に「海洋生物学の冒険」人間と歴史社(2014)
初級編で紹介したスキンダイビングは、最小の道具しか使わないので、水の中を自由に動き、イルカやペンギンのように海を飛ぶような体験を楽しめます。しかし近くに来てくれた魚以外の生き物を見るのは難しいものです。浅瀬で透明度が高いサンゴ礁でも、水面に浮かんでいる状態だと水が反射したり動いたりして、海底の生き物を見られないことがよくあります。
海に浮いているのも空を飛んでいるようで楽しいですが、中級編では海底の生物にもう一歩近づく方法を紹介します。中級編を通して見られる海の中の景色は、実は水深何百メートルまで続いています。さぁ深海を感じてみましょう。
初級編はこちらより:http://gogo.wildmind.jp/feed/howto/64
*必ず二人以上のペアーで一緒に泳ぎましょう。海のコンディション(風向き、潮の干潮、波の高さ)を頭に入れましょう。肌の露出は少なくし、日焼けには十分注意しましょう。海では、小型船やジェットスキーなどに注意しましょう。初めてフリーダイビングに挑戦する時は、必ず経験者と一緒に行いましょう。
中級編は初級編よりも深く潜ることを目的にしています。初級編の3点セット(マスク・シュノーケル・フィン)に追加して、ウェットスーツとウェイトベルトがあると良いです。海水浴で経験した人も多いと思いますが、身長くらいの深さでも底の海水は冷たいものです。ウェットスーツを着用したほうが寒くなく、長く水中にいられるので、海中の生き物を良く見ることができるでしょう。また岩などでの怪我の防止にもなります。ウェットスーツを着ない場合はウェイトはいりません。
通常シュノーケリングやスキンダイビングではウェイトは水面でプラス浮力、つまり浮く状態にするとされています。ウェットスーツを着るとそれだけでは浮きすぎるので、5mmのウェットスーツで2kg、3mmで1kgほどのウェイトをつけると言われています。
一方、スキューバダイビングでは水面で何もしない状態でマスクの中央あたりに水面がくるようにウェイトを設定するように指導されます。これは海中でちょうど浮きすぎず沈みすぎずの中性浮力をキープする必要があるからです。
スキンダイビングでも海底を眺めたい場合や、フリーダイビングの場合で、ウェットスーツを着た場合はもっと重いウェイトが必要です。海中でスキューバダイビングと同様、中性浮力になるくらいが理想です。シュノーケリングの時+2kgが目安になると思います。浮かないと怖いという人は、シュノーケリングのときと同じくらいのウェイトからはじめるのが良いでしょう。ウェットスーツを着ない場合には特に必要ありませんが、ウェイトがあったほうが簡単に深く潜れます。
中性浮力の場合は、じっとしていると浮きも沈みもしない状態になります。ちょっと下に向かえば底に着き、ちょっと水を蹴れば浮く、という一番力が要らない状態にウェイトを設定します。
これが重過ぎると、例えば海底のサンゴ礁の上に落下して珊瑚礁を破壊し、自分も怪我をするというようなことが起こりますし、海面に浮上するときに頑張って泳がなければならなくなります。また水面にいる時にも、水に沈んでしまい溺れそうになってしまいます。
一方ウェイトが少ないと、浮きすぎて潜るのが難しかったり、ウェイトの設定はとても重要なポイントです。スキューバダイビングの場合、背中に背負った酸素ボンベの酸素を吸っているので、水中では圧縮した空気が肺の中や血液に溶けている状態です。急浮上すると肺が急激に膨れたり、血液中に空気の泡が出来て血流が止まったりする潜水病になり非常に危険なので、ウェイトの設定は重要な問題になります。酸素ボンベを使用しないシュノーケリングやスキンダイビングでは息を止めて潜るので、圧力のかかった空気が急に膨れたり泡になったりという危険はありません。
思い切り息を吸った状態で止めて、浮力を最小限にするため勢いをつけて頭から潜りましょう。そのまま足で水を蹴り一気に一番深いところまで到達しましょう。ダイビング用語で「ヘッドファースト」「ジャックナイフ」などと言われます。水中では出来るだけ何も考えない方が酸素を消費せず、苦しくないでしょう。
ウェイトが無い場合や、海に入ってから浮かびすぎる!と気が付いたら、海底に沈んでいる石を持つとウェイトになります。楽な状態で潜ったり浮かんだり出来る大きさと重さの石を色々試してみるといいでしょう。浮上するとき石を捨てれば簡単に水面に上がれます。
砂浜の端の磯との境目あたり、海水浴というよりも磯遊びをするような場所が面白いです。足がつく所だと、頭から巻いた波をかぶったり、岸に打ち寄せられたりと泳ぐのが大変です。それを乗り越えた先、足がつかない所まで行ってみましょう。場所によっては流れが速いので十分注意しましょう。流される場所には入らないことが一番ですが、万が一流されたら頑張って流れに逆らって泳いで戻ろうとせず体力を温存しましょう。また、陸にいる人は自分で助けようとせず救助を呼びましょう。
釣りをしている人の周りには近づかないようにしましょう。釣り糸はかなり広い範囲まで伸びています。引っかかると釣り糸を素手で切ることはできません。(ハサミやナイフなどの刃物が必要です)
モーターボートやレジャークルーザーから水面の人間は良く見えません。水中ではどの方向からレジャーボートが来るのか分からないので、十分注意しましょう。
軍手やダイビング用の手袋があると、安心して岩に手を付くことができます。
レジャーでのスキューバダイビングは25mを限界としますが、珊瑚礁はそのままずっと深い数百メートル先まで続いています。数百メートル深い海底の景色も実は同じなのです。
深海では、光は海面近くよりかなり薄暗くなり「薄明かり」といわれます。深海探査の潜水船は、通常まばゆいライトを照らしながら潜ります。明るい光がないと、人間は周りが見えないからです。しかし数百メートルの深さで、潜水船のライトを全て消しても暗闇ではありません。透明度が非常に高い外洋では、太陽の光は1000mぐらいまで届くことがあるのです。
深海に棲んでいる生き物は、種類が違いますが、深海サンゴ、それを食べるウミウシ、岩場の陰に隠れているウツボ、イセエビ、タコなど、フリーダイビングで見られるのと同様の生き物たちです。
珊瑚礁がある熱帯の海域でなくても、日本の深海底では、深海のサンゴをはじめ、生き物を沢山見ることができます。実際、水深200-300mは東京湾沖でも最も深海サンゴの種類が多い深さで、浅い所で見られるイソバナと同じ仲間も多いです。
海には、注意しなければならない生き物もたくさんいます。十分気を付けましょう。
水中の生き物のうち食べられるもの(ウニやイセエビなど)は、場所によっては漁師さんの所有物です。下手に採ると密漁になります。周囲の看板などに注意しましょう。
海での体験を撮影できたら、『やった!レポ』にぜひ投稿してください。感想などは、『コメント』に記入してください。みなさまからの投稿、お待ちしています!
今回紹介したイソバナは、サンゴの中でも「八放サンゴ」という仲間に属し、沖縄・オーストラリアのグレートバリアリーフでサンゴ礁を形成するサンゴではなく、宝飾品になる宝石サンゴの近縁のサンゴです。中級編の魅力は、数百メートルの深さにいる生き物を、磯遊びができる深さで同じように見られることです。スキューバダイビングも素晴らしい技術ですが、機材や機械が無くても同じ世界を見ることができるのです。
海に適応した海棲哺乳類のアザラシは、息を止めて水深600mまで潜れます。クジラは息を止めて1000mまで潜れます。つまり彼らは深海の世界を実際に見ているのです。人間は完全に海に適応していませんが、フリーダイビングのプロは酸素ボンベ無しで、息を止めて水深100mまで潜ることができます。
ぜひ海の生き物が見ている世界を体験してください。いつまでも潜るたびに美しい海に出会えるよう、多くの人が自然の味方になって楽しむことを願っています。