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2017.06.22700 views

【連載】隠花植物入門#2 不思議生物 地衣類ウォッチングに行こう!

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新井文彦

きのこ写真家
知られざる地衣類の知られざる生態に迫る

はるか昔、生物の分類は、動物と植物のふたつに大きく分けられ(現在の分類体系はとても複雑です!)、植物はさらに、花を咲かす高等な植物・顕花(けんか)植物と、花を咲かせない下等な植物・隠花(いんか)植物に二分されていました。隠花植物は、シダ植物,コケ植物,藻類,菌類などを含みます。

明治時代の日本を代表する知の巨人・南方熊楠(みなかたくまぐす)は、博物学、宗教学、民俗学など、広い分野での活躍が知られていますが、植物学、中でも粘菌をはじめとする隠花植物の研究が有名です。

ぼくはきのこや粘菌が大好きなのですが、コケ、シダ、地衣類などにも興味を持っています。そう、それらの生物を、ひと言で表す便利な言葉こそ、生物学的にはほぼ死語となった「隠花植物」なのです。下等だなんてとんでもない。他の生物と同様に、地球生命が誕生して以来、進化に進化を重ねた最新鋭最先端の生物です。

この連載では、毎月第4木曜日 全5回にわたり、いわゆる隠花植物の中から、コケ、シダ、きのこ、地衣類、粘菌をご紹介します。花が咲かないから地味だ、などと思っていたら大間違い。その美しいこと、愛らしいこと……。じっくり観察したら、隠花植物のとりこになること間違いなしです。

【連載】隠花植物入門
#1 めくるめくコケワールドを覗いてみよう!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/113

#2 不思議生物 地衣類ウオッチングに行こう!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/121

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STEP 1

地衣類ってどんな生きもの?

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    樹海を見下ろす枯木から垂れ下がる地衣類
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    湖際のトドマツは地衣類パラダイス
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    一面コケの海に地衣類(薄緑)もちらほら
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    枯枝上に地衣類が揃い踏み
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    高山植物とともに地衣類(針状)も群生

実は、多くの人が、名前を知らないだけで、地衣(ちい)類を目にしているはず。生息域は、極地や高山から熱帯雨林、砂漠、都市部まで広範囲にわたるので、わたしたちの身近な場所でも普通に生息しているんです。多年生で、大きさは数mmから数mのものまでさまざま。日本で約1800種、世界では約3万種が知られています。

地衣類は、コケと似ているし、コケと同じような環境に生息するうえ、「~コケ」という名前が付けられている種が多いので(全体の約7割)、勘違いをしてしまう人もいるのですが、コケ植物とはまったく別な生物。菌類と植物(藻類、シアノバクテリアなど)の共生体で、分類的には、なんと、きのこと同じ菌類なのです!

地衣類を構成する菌類は、共生する藻類に、安定した生活の場や水や無機物を与え、藻類は菌類に光合成でつくった栄養(炭水化物)を与えます。菌類は、子嚢(しのう)菌、担子(たんし)菌、接合菌などに大きく分けられますが、地衣類の菌類は99.6%が子嚢菌です。また、共生する藻類やシアノバクテリアなどは約100種類あり、地衣類として共生する菌と藻類は分類群によって決まっています。

STEP 2

コケとは何が違うの?

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    植物にも見える、カブトゴケの仲間
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    コケの間から地衣類が立ち上がる
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    橙色のスミレモは地衣類ではなく藻類
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    名前はアカツメゴケだけど地衣類です
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    シラウオタケは担子菌類と藻類が共生

ぼくは、桃山時代~江戸時代の日本美術が大好きなのですが、例えば、狩野永徳「檜図(ひのきず)」や、尾形光琳「紅白梅図(こうはくばいず)、2つの国宝絵画には、コケだけではなく、はっきりと地衣類が描かれています。さすが、芸術家。観察力が鋭い!

では、コケと地衣類の大きな違いは何でしょう?

生殖細胞が胞子なのは両種共通していますが、分類的には、コケは緑色植物、地衣類は菌類です。コケは単独の生物ですが、地衣類は菌類と藻類の共生体。顕微鏡で断面を観察すると、地衣類は菌糸と藻の細胞で構成されていることがわかります。また、基本的にコケは明るい緑色なのに対し、地衣類にはやや灰色がかった緑色、橙色、黄色、黒など多様な色があります。

コケの他にも、小さな植物、スミレモ、カビ、きのこ、粘菌(変形菌)、など、地衣類と似ているものがけっこうあったりして、初心者にはなかなか悩ましい問題かもしれません。

STEP 3

いろいろな形の地位体

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    葉状地衣類(右:地衣体と皿形の子器)
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    樹枝状地衣類のミヤマハナゴケ
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    倒木にヤグラゴケなど樹枝状地衣類が林立
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    大雪山上の岩に密着した数種の固着地衣類
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    トドマツの樹皮を固着地衣類がびっしり覆う

地衣類がつくる体のことを地衣体といいます。地衣体は、その外見から、葉状(ようじょう)地衣類、樹枝状(じゅしじょう)地衣類、固着(こちゃく)地衣類に分けられます(この分け方は、現在の分類体系を完全に反映するものではありません)。

地衣類の種を同定するには、地衣体の表面の色や構造、生殖器官、附属器官などを、時に顕微鏡などを使って、詳しく観察する必要があります。しかし、初心者であれば、まず、見た目の面白さや美しさや可愛さを心ゆくまで楽しみ、そのあとで、同定のために、じっくり観察すればいいと思います。

MATOME
まとめ

大都会のコンクリートジャングルにも、動物、植物、きのこなどなど、人間以外のたくさんの生物が生きています。森には森の生態系があるように、人工的な都会の環境に適応した生態系がきっとあるのでしょう。

今回紹介した地衣類は、本当に興味深い生物ですが、特殊な環境で生きているわけではありません。極地から都会まで、地球上の陸地の約6%は地衣類に覆われているという説もあるほど「ありふれた」生物なのです。

生物的系統がまったく異なる、菌類と植物が共生してひとつの生物に!そんな不思議な生きものを、ごく身近で観察できるなんて、好奇心を刺激されませんか?

人間はいろいろなものを見ているようで、実は、興味があるものしか見ていません。そして見えてないものは、存在してないのと同じなんですよね。ぜひ、いろいろな野生生物を探してみてください。人生が豊かになること間違いなしです。そういう意味で、地衣類観察は、人生にコペルニクス的転回をもたらしてくれるかもしれません(笑)。

この連載は、毎月第4木曜日に、隠花植物の中から、コケ、シダ、きのこ、地衣類、粘菌を紹介しています。次回7月27日(木)の更新もお楽しみに!

もっと地衣類を知りたい人のために
オススメ参考文献
『街なかの地衣類ハンドブック』大村嘉人著 文一総合出版
http://goo.gl/vQtTPk
『地衣類のふしぎ』 柏谷博之著 ソフトバンク クリエイティブ
http://goo.gl/r8JSxJ

GROW CHART
成長スコアチャート
野性3
4知性
4感性
アクティビティ
探す
環境
山 ・ 森 ・ 街 ・ 公園
季節
春 ・ 夏 ・ 秋 ・ 冬
所要時間
1時間~3時間
対象年齢
小学校低学年以上
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