狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
野外活動におけるもっとも基本的な道具であるナイフ。木を切る・削る、ロープを切る、食物を採集・調理するなど、素手だけではできない作業をナイフは可能にします。
現在、私たちが手にするナイフの多くは形のそろった工業製品ですが、つい数十年前までは、どこの街にもある鍛冶屋さんでひとつずつ作られるのが当たり前でした。実は、単純な刃物を作るにはそれほど大掛かりな施設は必要ないのです。
鉄から刃物を作るときの主な作業は、「高温の炉で鉄を赤める」、「赤めた鉄を叩いて整形する」の2つ。これさえできれば、鉄から道具を作り出すのはそれほど難しいことではありません。もちろん、丈夫で鋭く欠けにくい刃物を作るには、良質な材料と経験が欠かせませんが、初めての挑戦でも「そこそこ切れるナイフ」を作ることができます。
材料となるのはどこでも手に入る五寸釘。これに七輪とハンマーなどのいくつかの道具があれば、自宅の庭先で小さなナイフを打ち出すのは簡単です。
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【連載】野生児育成計画
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五寸釘
数本
プライヤー
1本
ハンマー
1本
金床
1個
木綿糸
1個
木の棒
1個
革手
1個
七輪
1個
ドライヤー
1個
キッチンペーパーなどの芯
1個
バケツ
1個
ドリル
1個
グラインダー
1個
砥石
1個
上の写真を見ると道具の用意だけでつまずいてしまいそうですが、最低限必要なのは材料となる五寸釘とプライヤー、ハンマー、七輪だけ。グラインダーとドリルはなくても大丈夫です。
必要なのは「鉄が赤くなるまで高温にできる炉」と「鉄を叩いて整形できる設備」です。この2つが用意できるなら、使う道具は上で紹介したものでなくても問題ありません。
金床は鉄アレイなど丈夫な鉄の塊で代用でき、鉄を赤めるための炉は七輪ではなく耐火煉瓦を並べたものでも大丈夫です。自分の家や身の回りにあるもので工夫してみましょう。
七輪に炭を入れて着火し、ある程度火がまわったらドライヤーの冷風モードで空気取り入れ口から送風をはじめます。空気取り入れ口の周辺はそれほど高温にはなりませんが、念のためドライヤーの送風口はキッチンペーパーの芯などで延長しておきましょう。
使う炭はホームセンターで手に入る安いものがおすすめ。安い炭は高級な炭よりも密度が低いので風が通りやすく、送風のオン・オフで火力が調整しやすいからです。
炭全体に火がまわって炉内が高温になったら五寸釘を投入します。釘を入れるのは火のなかのいちばん高温な部分。炉内の色は、温度によって黒っぽい赤からオレンジ、オレンジから黄色へと変化します。黄色のほうが高温なので、そこに釘の先が入るようにします。
七輪の炉内は、条件によっては1000℃を超えることも。熱しすぎると釘はあっという間にボロボロになってしまい、七輪もいたみます。釘の色がオレンジ色になったら加工の頃合い。送風をやめて釘を取り出し、整形にうつりましょう。
初めての鍛冶体験に失敗はつきもの。最初の何本かは練習台のつもりで、スペアも用意しておきましょう。
釘が明るいオレンジ色になったら、いよいよ打ち出しの作業へ。プライヤーで釘の頭側をしっかりとつかみ、金床の上でハンマーで叩いて釘を刃物型へと整形します。温度が高いほど釘が柔らかいので、なるべく温度が下がる前に整形しましょう。温度が高いうちは叩くと「ゴッ!」という鈍い音と感触がしますが、冷めるに従い、ゴッ! ガッ! ガン! ギン! キーン! と音と感触が変化していきます。釘が硬くなったら、再び炉内に戻して赤め、作業を繰り返します。
打ち出す際、最初はまず両面から叩いて釘を薄く伸ばします。その後、刃にする側を集中的に叩いて刃側を薄くしていくと、薄く伸びたぶんだけ峰側(ナイフの背)へと釘が反ってきます。刃側を叩くうちに、自然と反り上がるので無理に反らせようとしなくても大丈夫です。ここで刃をなるべく薄くしておけると、このあとで行なうあら仕上げでの削りだしの作業が楽になります。
刃の形状、厚みだけでなくときには横からのぞいて刃が左右にブレていないかもチェック。刃が曲がっていたら叩いて調整していきます。
赤めた釘は非常に高温になっています。加工中は素手で触れないように注意しましょう。必ず革手を着用し、作業は長袖、長ズボン(どちらも天然繊維のものを)で行ないましょう。釘を打つときにかけらが飛ぶこともあります。心配な人はゴーグルも着用しましょう。
大まかな整形ができたら、刃側を削り出して余分な肉を落として薄くします。グラインダーがある場合はグラインダーで、なければ平らなコンクリートの面を濡らしてこすりつけてもよいでしょう。
形が整い、刃側が十分に薄くなったら整形は終了。再び炉に入れて明るいオレンジ色になるまで熱したら、水を入れたバケツに釘を差し入れて急冷します。鉄には高温の状態から急冷されると組織が変質し、硬くなる性質があります。この性質を利用して刃物を硬くする作業がこの「焼入れ」です。
焼入れが済んだら、再度峰側からのぞいて曲がりをチェック。焼入れ前はまっすぐになっていても、急冷の際に刃が左右に曲がることがあります。焼入れ後は鉄が硬くなっているので、大きな力をかけて直すのは禁物。ハンマーで軽く叩きながら調整していきましょう。
焼入れのときに、どの温度まで上げて急冷するかで、刃の硬さが異なってきます。高い温度から急冷すると硬く、それほど温度を高めずに急冷すると柔らかくなります。
砥石で擦って刃先を研ぎ上げます。一定の角度をつけ両側を交互に研ぎ上げましょう。砥石は粒がちょっと粗めの「中砥」で十分ですが、中砥で研いだ後に仕上げ砥にかけると刃先の曇りがとれ、切れ味も高まります。
五寸釘ナイフに柄をつける場合は、釘と同じ直径のドリルビットで木の枝に穴をあけ、そこにグラインダーで釘の頭を落とした釘を差し込みます。
グリップ代わりに紐を巻く場合は、太めの木綿糸を柄に沿わせて折り返し、釘の頭側から折り返した糸ごと巻き上げていきます。
想い描く長さ分だけ糸が巻けたら、折り返した糸の輪のなかに巻いてきた糸の末端を入れ、釘の頭側に残っている糸を強く引きます。こうすると折り返した糸の輪が締まり、残った糸が巻いてきた糸の内側に引き込まれて固定されます。最後に糸の末端を切って完成とします。ちょっと緩めの場合は、巻いた糸の両端に瞬間接着剤を1、2滴おとしておくと解けにくくなります。
ナイフにグリップをつけられたら、いざ実戦! 手近な木の枝などを削り出してみましょう。しっかりと刃がついた部分ではきれいに切れるのに、ちょっと刃が甘い場所では刃が進んでいかないことに気づくはずです。刃先に鈍い場所があったら、再び砥石で研いでみましょう。自分で研ぎ、自分で使ううちに、どれくらい刃をつければどれくらいの切れ味になるかを体で知ることができます。
自分だけのオリジナル五寸釘ナイフ。作ってみたら写真を『やった!レポ』に投稿して、みんなと体験をシェアしませんか? 質問や感想はコメントに記入してください。
人類が鉄を手に入れて以来、鉄はずっと私たちの生活のなかにありました。大量生産・大量消費が当たり前になった現代では、ほとんどの道具が使い捨てされるようになりましたが、かつてはどの町にも炉と大型のハンマーを備えた「野鍛冶」があり、鉄製の廃物は刃物から農耕具や漁具まで、生活に必要な道具へとリサイクルされてきました。
五寸釘からナイフを作る野鍛冶体験は、「技術」が私たちの手から遠く離れる前のことを思い起こさせてくれます。本来、道具と人の関係はもっと近しいものなのです。「鉄」と聞くと、丈夫で人の手では簡単に加工できない素材のように思えますが、身近な道具を組み合わせて作る炉でも、鉄を柔らかくするほどの温度を得ることができ、その炉を使えば、野外で欠かせない道具である刃物を作り出すことができます。
今回は簡易な製作方法を紹介しましたが、道具や行程を追加すれば、より切れ味の良い刃物を作ることもできます。興味を持った人は、ぜひ挑戦してください。