狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
人間は昔も今も、食物の保存に工夫をこらしています。例えば、誰の家にでもある冷蔵庫。これは温度を下げることによって雑菌の繁殖を抑え、食物を腐りづらくする道具です。
それでは、冷蔵庫がない時代は食物をどのように保存していたのでしょうか? 方法はいくつかありますが、野外活動を楽しみながら実践できるのが、食物に塩分を加えて、燻製して干し上げる方法です。
細菌が食物を分解するには水分と適度な温度が必要です。冷蔵庫はこの条件から「適度な温度」を奪うことで菌の繁殖を抑えます。塩分を加えて煙でいぶして干すのも菌の繁殖しにくい状況を作るため。食物から水分を抜き、煙のなかに含まれる雑菌の活動を妨げる物質を加えることで菌の繁殖を抑えるのです。
燻して干すのは誰でも手軽にできる保存食の作り方。狩猟採集の時代から伝わる保存食作りに挑戦してみましょう。
【連載】野生児育成計画
#1 大潮の夜を探検! 真夜中の磯遊び
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/67
#2 「水切り」と「遠投」をマスターせよ!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/79
#3 木の枝からパチンコを作る!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/93
#4 焚き火を使って「干し肉」を作る!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/97
#5 春の小川で「草摘み」に挑戦!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/100
#6 潮干狩りで狩猟採集生活にデビュー!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/102
#7 空き缶でウッドガスストーブを作る!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/112
#8 五寸釘を七輪で熱してナイフを作る!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/118
とり胸肉
適宜
醤油
適宜
砂糖
適宜
ニンニク
適宜
ショウガ
適宜
コショウ
適宜
ファスナー付きビニール袋
適宜
魚干し網
1個
木の枝(三脚用)
数本
木綿ロープか鎖
適宜
薪
適宜
干し肉に適しているのは脂身の少ない肉。脂身が多いと油が酸化して風味を損ねます。
とり胸肉からは皮と脂身をとり除き、短冊状に細切りに。この肉を醤油と砂糖、ニンニクとショウガのすりおろし汁、コショウを合わせた液に漬け、袋に入れて一晩冷蔵庫で保存します。
雑菌の繁殖を避けるため、肉の処理は清潔かつすばやく行ないましょう。手指はよく洗い、包丁やまな板などの器具も消毒しておきます。
液を浸み込ませたら、続けて金網などに広げてラップをせずに冷蔵庫へ。半日ほど風を当てて表面の水分を飛ばします。
木の枝をしっかりと組み合わせて三脚を作り、そこに木綿のロープか鎖を数周巻きつけます。
このロープに短冊状にした肉をかけ、その下で焚き火をおこして肉を乾かしながらいぶします。
燃料に向いているのは広葉樹。燻製作りによく使われるサクラやクルミ、ナラは風味豊かにしあがります。
針葉樹などのヤニの強い木は、渋みが付いてしまいます。
薪はきれいに燃焼させすぎると煙が出ないうえ肉に火が通り過ぎてしまうので、適度にくすぶらせながら、肉を乾かしましょう。
風で煙が流れてしまう場合は板状のもので衝立をして、肉に煙がかかるようにするとよいでしょう。軽く肉に火が通って、表面が乾いて茶色くなるまでいぶします。この状態で食べても十分美味しいのですが、ちょっとつまみ食いをするときはしっかりと肉に火を通してからいただきましょう。
焚き火である程度水分を飛ばしたら、今度は魚干し網に並べて風に当てて干し上げます。
向いている季節は湿度と気温の低い冬季。よく晴れた冬の日であれば、2日ほどでカラカラに干し上がるでしょう。完全に乾いたらファスナー付きビニール袋に乾燥剤と一緒に入れて冷蔵庫で保存します。
湿度が高く、暖かい時期になると肉が乾く前に肉に付いていた雑菌が繁殖する危険性が高まります。
干し肉を作るときは気温と湿度にも注意が必要です。
肉類は種類を問わず、食べる前に必ず加熱することが推奨されています。生食する文化があるとり肉も同様です。どんなに鮮度のよいとり肉を使っても、とり肉には食中毒を起こしえる原虫や雑菌が付着しえるからです。
干し肉を食べる際は水で戻してからスープや炊き込み御飯などのきちんと加熱する料理に使いましょう。生では旨味の弱い胸肉も、下味をつけて干すことによって旨味が凝縮され、ベーコンやホタテの貝柱のような味と食感に変わります。
焚き火で燻し、軽く火を通した干し肉とはいえ食中毒の危険が全くないわけではないので、食べる前には必ず匂いを嗅いで変な匂いがしないか確かめ、加熱してから食べましょう。
干し肉作りにチャレンジしてみたら、『やった!レポ』に投稿して他の人にもシェアしてみましょう。質問や感想があれば、ぜひコメント欄に書き込んでください。
私が干し肉を作りはじめたのは徒歩での長旅がきっかけでした。出かける先は食料の補給ができない無人地帯。商店もなければ、冷蔵庫を持ち込むわけにもいきません。ここを1週間かけて歩き通すために、軽くて日もちのする食料として干し肉を作りました。
見よう見まねで作った干し肉は大成功。歩いている最中は行動食になり、キャンプ地についたら水で戻してスープやカレーの具材となりました。この旅をする前も料理に乾物を使うことはありましたが、自分で作った干し肉は改めて保存食の力を感じさせてくれました。
保存食が活躍するのは無人地帯だけではありません。自然災害への備えとしても、保存食は有効です。
私たちの食卓は、冷蔵庫と電気があることが前提になっています。しかし、電気がなくなれば冷蔵庫もただの大きな箱。中の食物も数日でだめになってしまうでしょう。その点、保存食は電気がなくても数週間から数ヶ月間腐りません。
大きな自然災害が他人事ではない日本で、干し肉のような日もちがする食料の作り方を身につけ、またそれを保存しておくことは大きな安心感を与えてくれるでしょう。
【連載】野生児育成計画
#1 大潮の夜を探検! 真夜中の磯遊び
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