狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
化学繊維がない時代、私たちの先祖が衣類や紐の材料に使っていたのは植物の繊維でした。植物から繊維をとって紐を作るというと、何やら大ごとのように思えますが、植物の種類によっては、特別な道具を使わなくても簡単に紐に変えられるものがあります。しかもその植物は、今も私たちの身近な場所にたくさん生えているのです。
その植物の名前は「カラムシ」。日本では北海道から沖縄まで、どこにでも生えているありふれた草です。カラムシを覚えてそれから紐を作れるようになれば、いつでもロープを持ち歩いているようなもの。慣れてしまえば、1mの紐を作るのに10分もかかりません。ご先祖様もお世話になっていたカラムシともう一度お近づきになってみませんか?
【連載】野生児育成計画
#1 大潮の夜を探検! 真夜中の磯遊び
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#2 「水切り」と「遠投」をマスターせよ!
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#3 木の枝からパチンコを作る!
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#4 焚き火を使って「干し肉」を作る!
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#5 春の小川で「草摘み」に挑戦!
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#6 潮干狩りで狩猟採集生活にデビュー!
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#7 空き缶でウッドガスストーブを作る!
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#8 五寸釘を七輪で熱してナイフを作る!
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#9 夏の夜の雑木林を探検!
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#10「カラムシ」の繊維で紐を作ろう
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カラムシはイラクサ科の多年草。数千年前から栽培されているので、それが野生化したものが日本全国の河川敷の法面や河原、ちょっとした空き地など、どこにでも生えています。大葉に似た外観で、高いものでは草丈が1.5mほどに成長します。葉の裏が白い「カラムシ」と葉の裏が緑の「アオカラムシ」の2タイプがありますが、どちらも同じように繊維が取れます。草刈りにも強いので、一度生える場所を覚えておけば何年間も利用できます。
カラムシを根元から収穫したら、穂先を握ってもう片方の手で下側へと葉をしごき落とします。続けて、折り取った切り口の表皮をつまみ、先端ヘ向かって引き下げればするするとカラムシの表皮を剥ぎとることができます。剥ぎ取った表皮は、さらに3mm程度の幅に割いておき、数本を束ねて末端を結んでおきます。
結んだ末端を足の親指と人差し指で挟んだら、繊維の束を2つに分けましょう。
その束がくっつかないように注意しつつ両の手のひらで挟んだら、上側の手をスライドさせて繊維をねじり、撚りをかけていきます。上側の手がある程度進んだら、指先側にきている束をつまんで今度は手首側へと返します。
撚りをかけたら指先側に来た束を手前に戻す、という作業を繰り返すうちに、2本撚りの紐ができあがっていきます。
ある程度編むと次第に束が細くなってくるので、適当なタイミングで新しい繊維を追加します。繊維を足すときは2本の束の交点に新しい繊維を足し、一緒に撚りこみましょう。摩擦力で繊維が固定され、元の束とひとつになります。
注意したいのは、繊維を加えるタイミング。いちどきにたくさん繊維を足すとそこで太さが変わってしまう上、その部分から切れやすくなってしまいます。それぞれの束が細るタイミングに注意しながら、片方の束に追加したら、少し編みこんでからもう片方の束に新たな繊維を追加しましょう。繊維が一ヶ所で途切れることがないので強い紐になります。
カラムシの紐は束ねる繊維の量で自在に太さを変えられます。細い紐がほしいときは少なめの束で、太い紐が必要なときには、一度撚った紐を2本撚り合わせることでさらに太くすることができます。素材にするカラムシの状態や紐のできばえにもよりますが、直径が1cmもあれば30~40kg程度の引っ張り強度が出ます。
カラムシの紐の用途はさまざま。野外で荷紐やものを縛るのに使ったり、弓錐式火おこしの弓弦にすれば、野にあるものだけで簡単に火が起こせるでしょう。また、天然繊維なのでやがて土に還ります。化学繊維の紐を残したくない場面などでも活躍します。
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ロープはナイフと並ぶ野外活動の基本の道具です。結ぶ、吊るす、結束する、大きな力をかける……など、ロープなしではできない作業がたくさんあります。いざというときロープが手元にない、なんて場合は、慌てずに周囲を歩いてみましょう。どこかにきっと、カラムシが生えているはずです。
日本最古の歌集である万葉集には「多摩川にさらす手作りさらさらに 何そこの児のここだかなしき」という句があります。ここに詠まれた「手作り」とは布のこと。一説にはカラムシを使っていたともいわれています。
この歌が詠まれたのは、地名に布作りの名残を留める東京・調布の周辺。そして今回のハウツーの撮影は調布で行なってみました。千年前、和歌に詠まれたカラムシの子孫から繊維をとってみたわけです。
カラムシは今も、みなさんのごくごく身近な場所で生き抜いています。そしてそのカラムシは、みなさんの先祖が使っていたカラムシにつながっているのです。