狩猟採集、野外活動、自然科学を主なテーマに執筆・編集するフリーランスのエディター、ライター。川遊びチーム「雑魚党」の一員として、水辺での遊び方のワークショップも展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。twitterアカウントは@y_fomalhaut。
アメリカから日本にやってきて90年。今やアメリカザリガニは日本の里山のどこにでもいる子供たちの遊び相手になりました。ところが本国やヨーロッパでは、遊び相手ではなく食材として愛されています。日本人の感覚からすると抵抗がありますが、それはきっとアメリカザリガニを目にする場所が汚れた水辺だから。きれいな湧水を集めた川に棲むアメリカザリガニは、立派な食材です!ここでは、そんなアメリカザリガニを獲って美味しく食べる方法を紹介します。
【連載】野生児育成計画
#1 大潮の夜を探検! 真夜中の磯遊び
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#2 「水切り」と「遠投」をマスターせよ!
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#3 木の枝からパチンコを作る!
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#4 焚き火を使って「干し肉」を作る!
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#5 春の小川で「草摘み」に挑戦!
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#6 潮干狩りで狩猟採集生活にデビュー!
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#7 空き缶でウッドガスストーブを作る!
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#8 五寸釘を七輪で熱してナイフを作る!
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#9 夏の夜の雑木林を探検!
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#10「カラムシ」の繊維で紐を作ろう
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#11 魚の多い秋の磯で、シュノーケリングで泳ぎ釣り!
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#12 ザリガニは食材だ!湧水で獲ったザリガニを食べよう
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アメリカザリガニの味を左右するのは、棲んでいる環境。泥っぽい川で育ったものは長めに泥抜き(清水に泳がせて臭みを抜く作業)をしても、臭いが気になります。長年体に染み付いた臭いは1週間程度の泥抜きでは抜けないのです。また、アメリカザリガニの臭いが気になるような川では、化学物質などの面でも問題があるかもしれません。
出かけるべきは湧水を集めて流れる小川。玉砂利から水草が生えているような小川のアメリカザリガニは臭いもなく、化学物質の蓄積の心配もありません。「住んでいる都道府県」「湧水」といったキーワードで検索すると、家から1、2時間で行ける湧水ポイントが見つかるはずです。
川に着いたら、岸沿いの茂みにタモを構えて、足を使って上流側からタモの中へアメリカザリガニを追い込みましょう。アメリカザリガニが潜むのは比較的流れの緩やかな場所。環境の良い場所に固まって潜んでいるので、1匹見つけたらその周囲を丁寧に探すとよいでしょう。アメリカザリガニは見た目のわりに歩留まり(全体に対しての可食部の割合)が悪いので、多めに集めておきましょう。。
泥抜きとは泥っぽい場所で獲れた獲物を清水に泳がせて、消化器官の内容物や臭みを抜く作業のこと。アメリカザリガニは雑食性なので、消化器官には死んだ魚の肉などが詰まっています。これらを出し切るまで、水替えをしがなら2、3日バケツに生かしておきましょう。
採集時はひとつのバケツにたくさん入れても構いませんが、泥抜きのときには十分な空間を設けておかないとストレスであっという間に死んでしまいます。なお、泥抜きに使う水は、水道水から塩素を抜いたものを使いましょう。
注意したいのは、移動と管理。外来のアメリカザリガニは緊急対策外来種に指定されています。採集地からの移動や泥抜き中に逃してしまわないよう注意が必要です。
泥抜きが済んだらいよいよ調理。消化器官が空っぽになったとはいえ、器官そのものにも臭いがあるので最初に取り除きます。この消化器官とはいわゆる「背ワタ」。アメリカザリガニはエビに近い仲間なので、これ以降の処理はエビと同様だと思って構いません。
アメリカザリガニから背ワタを抜くときは、まずはまな板の上で押さえつけ、尾の先端の尾節の真ん中の1枚をつまみます。これを上側へパキッと折り、ゆっくり引くとアメリカザリガニの背ワタがするりと抜けてきます。背ワタを抜いたアメリカザリガニは水を張ったボウルに入れて血を抜きます。
処理が済んだアメリカザリガニは調理法に合わせて尾身、剥き身、上半身に分けます。先にも書いたとおり、アメリカザリガニは歩留まりが悪いので、下処理の段階で可食部だけに分けておくのが調理のコツ。ソースなどを使う料理では、殻付きのまま調理すると殻にばかりソースを取られてしまいます。
尾身、剥き身を使う料理と、上半身を煮込んでだしを取る汁物を一緒に作ると、無駄がありません。
「食べ物」と「食べられない物」は、大抵の場合、味や毒性によって線引きされていますが、これ以外に「文化」によって隔てられることもあります。
たとえば、エビ、カニ、シャコといった甲殻類。これらを私たちは「美味しそう」と感じますが、よく似ているタイノエやグソクムシのことは、まず食べ物だと思いません。どちらかといえば、気持ち悪い生き物だと感じてしまいます。
ところが、タイノエもグソクムシも、食べてみるとエビやカニに劣らない食味です。グソクムシの身はエビをずっと濃厚にした味わいで、十分食材として通用します。もしもグソクムシが食材としてスーパーに並び、子供の頃からそれを食べていたら、私たちはグソクムシを見たときに「美味しそう」と思うようになったでしょう。
その反対に、エビ、カニ、シャコを食べない文化で育っていれば、私たちはこれらを気持ちの悪い生き物だと捉えていたかもしれません。
このように、「食べ物」と「食べられない物」の判断は、育った環境で左右されます。日本ではまず食材として扱われないアメリカザリガニも、海外では食材として大切にされています。フランスでは、ザリガニを獲るために川にピクニックに行き、罠をしかけてからワインを飲みつつザリガニが入るのを待つのだとか。日本のザリガニ獲りと比べて、とても優雅です。
アメリカザリガニを食材としてとらえたとき、問題になるのは水質だけ。これさえクリアできれば、アメリカザリガニは日本でも立派な食材になり得ます。「アメリカザリガニは子供の遊び相手」と思っている人にとって、アメリカザリガニを食べてみるのは、自身の食への固定観念を揺さぶる体験になるかもしれません。