1971年地球の日(4/22)に生まれる。1996-2004年カナダやアメリカを何度も訪れ、雪山登山、ロッククライミング、野外教育法、ネイティブアメリカン古来の教え、大地と共に生きるサバイバル技術等を学ぶ。
2001年よりWILD AND NATIVE
(http://wildandnative.com/) 主催、2013年一般社団法人危機管理リーダー教育協会(http://cmle.jp/) 設立。ネイティブアメリカンの大地と共に生きるサバイバル術、アウェアネス等を、一般の方から自衛官警察官まで共有。
最新著書「キャンプでやってみる子供サバイバル」(http://amzn.to/2svhoiD)
折角ブッシュクラフトをするのであれば、食料も現地調達したい!なんて思う方も多いかと思います。特に野生動物をハンティングして、それを食料に出来たらとってもワイルドな体験になるはず。但しそれには狩猟免許をとらないといけなかったり、解体しないといけなかったり・・・色々と敷居が高いんです。
そこでお勧めなのが、今回ご紹介する「トラッキング」というアクティビティです。トラッキングというのは、動物の痕跡を見つけ、それを追っていくという、狩りに使われる技術のひとつです。ぜひこれをやってみましょう。ただし目的は、「狩」ではなく、痕跡を見つけ、その主の「気配」を感じること、その「物語」を読み取ること。あわよくば野生動物を目撃する!なんてことも出来るかもしれません。
特に原始的な狩に使われたトラッキングは、「追跡術」というよりは、その痕跡の主に「同調する術」なのです。このちょっとだけ不思議な世界を、ぜひ一緒に体験してみましょう。
【連載】ブッシュクラフト入門
#1 ペグ作りで覚えるナイフの使い方
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/86
#2 タープと2種類のロープワークでつくるシェルター
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/87
#3 フォックスウォークで地球と歩こう
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/90
#4 トラッキングベーシック
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/96
#5 ナイフ一本で挑戦!快適な焚き火ベンチをつくろう
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/103
#6 マルチに使える薬草ミストを仕込もう!
https://gogo.wildmind.jp/feed/howto/117
フィールドに出ると、沢山の痕跡が見つかります。それらの痕跡を片っ端から拾っていくのも楽しいですが、今回に関しては、追う動物を絞っていきましょう。お勧めは猪や鹿。特に猪は大胆な、激しい動きをするので、痕跡をはっきりと残してくれます。初めての人でも、充分に痕跡を見つけることが出来ると思います。そんなわけで今回は「猪」を例に進めていきましょう。
繰り返しになりますが、今回ご紹介するトラッキングは、痕跡を残した「主」へ「同調」することを大切にします。色んな意味で、自分から「主」へ歩み寄る、追うイメージです。ですので先ずは相手のことを、一生懸命知ろうとしましょう。
インターネットの情報や、お持ちの図鑑、または図書館などを訪れて、次の項目が含まれた、A4サイズ2ページ位の猪図鑑を自作してみましょう。
・身体的特徴(イラスト、サイズ等含む)
上手な絵じゃなくていいです。ただしその動物の特徴はしっかりと捉えましょう。イラストには体長や体高なども書き入れましょう。
図鑑などに載っている情報だけではなく、写真などをよく見ると、そこから分かることもあります。例えば、体型はどっしりとしているのか、それともスラッとしているのか。脚は長いのか短いのか、顔と身体の大きさの比率はどうかなど、自分の印象でよいです。気がついたことは全て書き留めてみましょう。トラッキングには洞察力が凄く大切になります。
・どんな場所が好きか?
乾いた場所?湿った場所?急な斜面?それとも平らな場所?これも文章からだけでなく、猪が写っている写真の背景なども是非参考にしてみましょう。
・好きな食べ物は何か?
・の「好きな場所」と大きく関わってきます。好きな食べ物がある場所が、好きな場所であるわけです。何処に痕跡を探しに行けばよいか、大きなヒントにもなります。
・天敵は?
居る?居ない?居るとしたらどんな動物?人間との関係は?
・主要な感覚は?
これも図鑑などで述べられていることだけでなく、写真をよーく観察しましょう。基本的にはその感覚器官が使いやすいような身体のつくりになっています。犬は嗅覚が使いやすいように面長になっていますし、耳の長いウサギは当然聴覚を頼りにしています。図鑑で述べられていなくても、「こうかもしれない・・・。」という印象を大切にしてあげましょう。こうやって想像力を使って「予想」すること自体も、既にトラッキング - 同調なのです。
・残す痕跡(イラスト、サイズ含む)
探しに行く痕跡を、しっかりイメージとして捉えましょう。その痕跡のイラストにサイズなども書き添えます。その他、絵では書ききれないことも言葉として添えます。例えば糞であれば、「崩すと繊維状」とか、艶があるとか。サイズを書き加える時には、「10センチ前後」と書くのもいいですが、「CDの直径くらいの長さ」などと書いてあげると、イメージしやすいです。参考までに今回の「猪」に関しては、次の痕跡をイラストにして、イメージをおさえておきましょう。
足跡、歩調パターン、獣道、糞、食痕(ラッセル痕含む)、ヌタ場、身体の泥擦り痕とそこに付着しがちな体毛など
・一年の行動パターン、一日の行動パターン
例えば熊は冬眠します。それから繁殖期というものもありますし、季節によって食べる餌も変わります。大まかでいいので、その季節特有の習性があれば抑えておきましょう。特に「今」の季節の行動パターンをしっかりとおさえます。
また一日の行動パターンも知っておきます。野生動物の行動は、ある意味単純です。寝る、食う、水を飲む、歩く、糞をするなどの基本行動プラス、その動物特有の行動があります。一年の行動パターンと照らし合わせて、今、この時期の一日の行動パターンがどんな感じなのかを調べる、または予想してみましょう。
図鑑作りは、時間をかけすぎると飽きます。長くとも調べるのに20分、書くのに20分、合計40分くらいを目安にしましょう。
あまりに専門的な情報はとりあえず読み飛ばします。細かさよりも、とりあえず全体像を一度完成させるイメージで作業します。
さあ、非常に大事なステップです。古来の狩人達は、ある意味客観的にその動物を追うのでなく、自分がその痕跡の「主」に成り代わろうとしていました。私達も、その古来のトラッカーにならってみましょう。
STEP 2・3で書いた図鑑を元に、先ずは猪に変身してみます。想像力が物を言います。身体がずんぐりしてきて、硬い体毛が自分を覆います。鼻が地面を這うような感じになり、目線の高さが低くなり、脚も短くなって・・・・などなど、実際に四つんばいになってやってみると上手くいくかもしれません。
猪に変身できたら、やはりSTEP3で想像した一日の行動パターンを、猪になったまま体験してみましょう。歩いてみたり、餌を探してみたり、ヌタを打ってみたり・・・その時に自分がどんな風に痕跡を残すかも、しっかりと観て、感じてあげましょう。実際動きに表さなくても、想像力を働かせれば、椅子に座ったままでも出来ます。人間が感じられない自然を体感出来るような気がしますよ。
ここで言う「想像力」とは、頭で想像する力ではなく、イメージとしては感覚で想像する力です。肌触り、聞こえる音、感じられる匂い、実際に自分視点で見える世界。実際に見えていない世界を体験する、ちょっと不思議なエクササイズです。
さあここからはフィールドでのエクササイズです。先ずは行き先を決めましょう。行きつけのキャンプ場には猪はいませんか?分からなければ、施設に電話をして、「猪の痕跡を観察したいのですが?」などと聞けば、気持ちよく教えてくれます。
現地についたら、大きな視点を持って場所を観察しましょう。太陽の位置、地形、日当たり、風向き、川の位置などを捉えて、痕跡がありそうな場所を割り出します。グーグルマップなどを頼りにするのもいいでしょう。
痕跡探しに夢中になっていて、いつの間にか帰り道が分からない!なんてことにならないようにしましょう。猪の痕跡は人里近くでも沢山見つかります。山に入っていくときには、ブッシュクラフト#3の「フォックスウォーク(http://gogo.wildmind.jp/feed/howto/90)」も参考にして下さい。
時折止まって振り返るなどしながら、常に自分のいる場所を確認しておきましょう。
前日の調査、イメージトレーニングがしっかりと出来ていれば、面白いように痕跡が目に飛び込んで来る筈です。見つけた痕跡は、ぜひ写真に収めたり、スケッチしたりしましょう。
見つけた痕跡の中でも、一番気になるものをひとつピックアップしましょう。
その痕跡を残した時のストーリーを、英語の5W要素を入れて作ってみます。STEP2で作った図鑑が活躍します。また、周りの状況もしっかりと参考にしましょう。分からない部分は、雰囲気から自由に予想します。ここでは正確さは重要ではありません。「主」に心を寄せることが重要なのです。
・ Who? どんな奴? 雄?雌?大きさは?年齢は?など
・When? いつ? 昨夜?数日前?目の前の痕跡から感じられる雰囲気や様子、最近の天候などを参考に予想してみましょう
・ What? 何をしていた? その痕跡が食痕であれば「餌を食べていた。」足跡であれば、「餌場から水場へ歩いていた。」など、簡単でよいです。
・Why? 何故そこに居た? 好きな餌があったから?風向き?物陰になっているから?少し視野を広げて、その動物の目線に高さに自分の目を持ってきたりしながら考えてみましょう。
・Where? 何処に向かっていた?または「今」何処にいる? 一日の行動パターン、一年の行動パターン、周りの自然環境などから想像してみましょう。
そしてこんなストーリーが例えば出来上がります。
「雄の猪?大きな固体で目線はこの位の高さ。(Who?)
数日前の雨上がり(When?)、鼻先で土を掘り、餌を探していた(What?)。ここには美味しい根があるので、掘り起こしては食べて、硬い部分は吐き出した。時折ミミズも見つかり、それも食べた(Why? & What?)。この後はあそこの斜面を降りて、次の餌場に向かう(Where?)。」
分からない部分があったら、「どうすれば分かるようになるんだろう?」と考えてみましょう。するといつの間にか、もっと深い部分へ同調していくでしょう。
最後は英語で言う5W1Hの、最後のHにアプローチをしてみましょう。
How? 主はここでどのように感じていた?
まさに「同調」する、まとめのエクササイズです。先ずは再び猪に変身します(STEP3を参照)。ランダムな猪ではなく、今度はまさに、その痕跡を残した「猪」になります。
猪に変身しながら、STEP 6で作ったストーリーを、想像力を生かして、その猪になって体験してみます。そしてその時どんな感じがするのか、ノートに書き留めてみましょう。
例えば、
「雨上がりのみずみずしい土が軟らかくて凄く気持ちが良いし、そのせいか根っこも美味しい気がする。大好きな土の香りが濃厚だし、鼻先でどんどん掘りたくなる。民家の人々は寝静まっていて、ハンターもこの時間は居ないので、凄く安心して餌探しに集中できる。次の餌場も楽しみで仕方がない。喜びで一杯だ!」
さて、皆さんは一体どんなイメージが沸いてきましたか?
トラッキングの様子や作った図鑑を『やった!レポ』に投稿して、他の人ともシェアしましょう。
質問や感想があれば、ぜひコメント欄に書き込んでください。
いかがでしたか?とりあえず細かいテクニックよりも、楽しさ、想像力を重視したエクササイズを紹介してみました。自分の分析が合っているのかどうかなんて、全く心配せず、自由に遊んでみましょう。
我々現代人は「狩」をする必要がなくなってしまった分、野生動物に気持ちを寄せたり、彼らの気持ちを推し量る必要がなくなってしまいました。トラッキングは、趣味としても本当に楽しいですし、彼らと同調することで、今まで感じられない自然を味わうこともできます。今回も、猪に変身したからこそ、土に顔をうずめて餌を探すなんていう感覚を想像することができました。
多くの人がトラッキングをするようになって、他の地球の住人達が感じているであろうことに思いを寄せ、同調するようになると、きっと人間の視点だけで自然を見ることがなくなります。我々現代人がイマイチ苦手としている、「自然との共存」も、もっと上手に出来るようになるのかもしれません。
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