キャンプや焚き火のあと、炭箱の底や火床には細かい炭が残ります。現代では灰と一緒に捨ててしまうこの炭クズを使って、昔は「炭団(たどん)」を作ることがありました。炭団は炭を粉にして澱粉糊で固めたもの。火保ちのよい炭団は、囲炉裏や火鉢のなかで翌朝まで火を温存するのに使われました。今のような便利な着火具がない時代には、火を絶やさずつなぐことは重要な生活の技術でした。現代では火をつなぐ必要はなくなりましたが、キャンプや焚き火で出たクズ炭を集めて炭団を作れば、翌日の火起こしがぐっと楽になり、資源を無駄にしない満足感も得られます。
近年、全国でクマ類による人身被害が増えています。今年8月には知床半島の羅臼岳登山道上でヒグマによる死亡事故も発生しました。クマとの共生を謳ってきた世界自然遺産での壮絶な事故のしらせに、多くの方が背筋の凍るような思いをしたと思います。最近は毎日のようにクマの事故が報じられ、人とクマとの関わり方、軋轢について、否応なく考えさせられる時代になってきました。森に住まう、静かな隣人だったクマたちは今、私たち人間の生活圏に押し寄せてきています。ヒグマとツキノワグマの双方を追い、観察を続けてきた私自身、クマの行動や生息域の変化の早さに戸惑うほどです。普段から自然に遊ぶ人たちはもちろん、町に暮らす人にとっても、クマという動物は遠い自然の中の存在ではなくなってきました。人とクマの接触が増えた現状をどう受け容れていけばいいのか。どのようにクマの存在を私たちの生活の中に受け入れていけばいいのか。自然写真家の目線から今後のクマとのつきあいかたを考えてみました。
子どもを授かって出産し、外に連れ出せる時期を待つと、母親は1年以上本格的な運動を休むことになります。なかでも再開の見極めが難しいのが登山。長時間子どもから離れるわけにもいかないし、危ない場所に連れていくわけにもいきません。母親と父親、そして子どもの三者が無理なく登山を楽しむにはどうしたらいいのか……。親子登山初期の「おんぶ登山」の実践方法をご紹介します。
夏の気温が40 ℃近くになることも珍しくなくなった昨今。国連の事務総長が「地球沸騰化」という言葉で表現をしたこともうなずけるほど、地球温暖化は加速しています。夏場は屋外での活動を控えるようにうながされることも増えてきましたが、屋外がどこも一様に暑いわけではありません。身近な場所に隠された天然の納涼スポットなら、盛夏でも野外活動を楽しめます。
「カメラオブスクラ」は現代のカメラの基礎となった道具。小さな穴(ピンホール)から入り込んだ光は上下左右反転した像を穴の反対側にある壁に映します。この現象を利用して、カメラオブスクラは風景などを正確にトレースすることに使われました(カメラオブスクラには撮影の機能はなかったため、当時は映り込む像を手でなぞって描画していました)。ピンホールのかわりに安価なレンズを用い、さらに撮影する機能もつけたのがここで紹介する段ボールカメラです。現代では日常的な行為となった「撮影」の源流を素朴なカメラで体験してみましょう。
松葉サイダーは昭和の時代から親しまれてきた素朴な炭酸飲料。松葉についている酵母菌で砂糖水を発酵させて微発泡の炭酸水へと仕立てます。必要な素材と道具は砂糖と松葉と保存瓶だけ。太陽の力と時間を使って夏にぴったりな清涼飲料水をつくってみましょう。
子供のころに植木鉢やプランターで花や野菜を育てたことはあるでしょうか? 序盤はすくすくと育ったのに、そのうちに枯らしてしまった、という経験を誰しももっているのではないでしょうか。土の容量が小さい植木鉢やプランターは、保持できる栄養も小さく乾燥の影響も大きく受けます。プランターで上手に植物を育てるには小まめな水やりと栄養の補給が必要です。しかしこれは、かけた手間が如実に表れる環境とも考えられます。水、光、栄養……の条件が限定されるプランターで植物を育ててみると、植物の成長に必要なものを感覚的に知ることができます。そしてプランターなら、庭を持たない人でも手軽に野菜作りに挑戦できます。収穫をゴールに据えて野菜を育てて、身近なようでまったく知らなかった土の力を感じとってみましょう。
現在、急速に在来植物が減っています。その理由はさまざまですが、その要因のひとつがハナバチを中心とする花粉媒介者の減少だと考えられています。地球上で昆虫とともに進化してきた虫媒花(花粉を虫に運んでもらう花)は、虫が消えると花粉を運んでもらえず、タネをつくることができなくなります。植物がつけるタネは、鳥や哺乳類などの大事な食糧でもあります。在来植物とハナバチを守ることは、そのほかの多くの生き物の暮らしを守る活動でもあります。郷土に根付いてきた在来植物の花を私たちは「ここはな」と名付けました。ここはなとハナバチを守る花壇をつくって、地域の生物多様性を保ってみませんか。
野生動物たちは人間たちの環境の改変に振り回され、その生息数を減らしたり、絶滅の憂き目にあったりしてきました。ところが、近年の森林の放置にうまく適用してその生息数を劇的に回復してきている動物たちもいます。その代表がシカとイノシシです。その生息数の増加に伴い、農林業被害なども問題視されるようになり、森林生態系への被害も報告されています。「害獣」などと呼ばれ、悪者扱いされがちなシカやイノシシですが、狩猟という観点から見ると、おいしいお肉を提供してくれる「ありがたい獲物」になります。 今回紹介するのはわな猟についてです。以前は日本で狩猟というと銃猟が一般的でしたが、近年はわな猟の人口も増えてきています。獲物の増加を背景に、狩猟を職業にする人も出始めていますが、僕が実践しているのはあくまでも生活の一部としての狩猟です。家族や友人たちと分け合って食べる肉を1年分確保するために、1シーズン10頭程度の獲物を捕る暮らしを25年ほど続けています。
春になると毎年おいしいタケノコが出回りますが、一般的によく食べられている孟宗竹(モウソウチク)のタケノコは、地中からほんの少し頭を出したくらいが収穫のタイミング。竹は成長が早い植物のため、すぐ食用に不向きなサイズとなってしまいますが、そんな育ちすぎたタケノコだからこその活用法があるのです。それはラーメンのトッピングでお馴染みの『メンマ』にすること!もともとの産地である中国や台湾では採算面の低さから生産が敬遠され、世界的に不足しているとも言われているメンマ。自作をしてみると敬遠したくなる気持ちもわかるくらいに手間と時間が掛かりますが、わざわざ作るに値するだけの味わいが楽しめますよ。
八ヶ岳山麓の標高750mの山里で自給的な暮らしをしています。この標高だとサトウキビは栽培できません。カエデの樹液からメイプルシロップはつくれますが1シーズンかけてつくったメイプルシロップはパンケーキ3回でなくなってしまいます。その点、蜂蜜は優秀です。ここ虫草農園で育てているのは、ニホンミツバチという在来種。セイヨウミツバチに比べると採蜜量は5分の1程度とかなり少ないのですが、それでもひとつの巣から1シーズンで2000cc以上の蜂蜜が採れたりします。さらにミツバチたちは別の幸運をももたらしてくれました。ハチを飼い始めてから畑の作物、特に実モノの出来がよくなったのです。虫草農園は無農薬、無化学肥料、放任に近いいい加減な栽培方法なのですが、それにもかかわらず、アンズはジャムを販売できるくらいにたくさん採れるし、桃も1本の木で200近い袋をかけています。さらには、野菜などのタネを自家採種する上でもミツバチはありがたい存在。優良なタネがたくさん採れます。ミツバチは健気で可愛くて観ているだけでも癒やされるのですが、ミツバチを飼うことでハチたちは、われわれヒトと自然との間でいまどんなことが起きているのかを教えてくれます。
人間の暮らす街を生活の場とする鳥、「都市鳥」。人がつくった環境を積極的に活用する鳥、一度は姿を消したものの再度都市へと進出してきた鳥、都市化によってすみかを追われ細々と生き残っている鳥……。そんな都市鳥のなかには、都市で繁殖するものがいます。その代表がスズメですが、彼らが好んで巣をかけた瓦屋根がなくなったことで、スズメは繁殖の場をなくしたと考えられています。スズメをはじめとする馴染みの鳥たちと今後もご近所付き合いができるかどうかは、食事を採れる場所と子育てできる場所を提供できるかどうかにかかっています。観察しやすい庭木に巣箱を置いて、家賃がわりに鳥たちの不思議を少しだけ覗かせてもらいましょう。
「糒(ほしいい)」とも書かれた乾飯は、炊いたご飯を乾かして保存期間を飛躍的に伸ばしたもの。日本人はふるい時代からこの保存食を活用しており、天平10年(738年)の駿河国正税帳には乾飯を納めた倉のことが「糒倉」として記録されています。第二次世界大戦では日本軍の要請によりアルファ化米(乾飯はこれの一種)の研究が進み、今もアルファ化米は炊飯なしで食べられる白飯として重宝されています。現代の保存食の原点でもある乾飯を自宅の台所でつくってみましょう。
北海道から九州にかけて分布し、日本の古歌にも登場するクズ(葛)。日本人はクズを歌に詠み、根から葛粉を取り、茎からは繊維を取って利用してきました。そのいっぽう、旺盛な繁殖力でクズは厄介な侵略者扱いされることも……。移入先のアメリカでは、侵略的外来種に指定され、防除に大きな予算と手間がかけられてもいます。日本でも生えてほしくない場所で繁茂することもありますが、そんなときはぜひクズを利用してみましょう。きっとクズの見え方が変わるはずです。
木々が葉を落とし、生命感も薄い冬。暖かい季節には虫たちで賑わった野山も、動くものは少なく静まりかえっています。しかし、冬枯れの風景のなかでも虫たちはちゃんと命を繋いでいます。冬の野山に出かけて、この季節だからこそ目にできる虫たちの営みをのぞいてみましょう。